【10000打リクエスト】

□→最果←サイハテ→
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【キッド】

シューティング。
格ゲーに、音ゲー。
麻雀に、スロット。
果てにはカードゲーム。

ほぼ全てのゲームの1位に君臨している“T.L”
T.L…どんな奴なんだろうな。
結構気になるもんだ。

「とうとうT.Lがスコア独占だな」
「あぁ」

“T.L”
カウンターでメダルの枚数を機械に数えさせながら、画面に流れるスコア画面を眺め、同じバイトのキラーと言葉を交わす。
冴えない従業員服と、ネームプレート“ユースタス”。
これが大学4年、俺のバイト。
もちろんバイトのある日は、ワックスで髪は上げない。
ただでさえ目立つ自毛だ。
上げてると色んな奴に絡まれるからな。

「T.L…名前、知ってるか」
「いや…」
「…うぉぉぉ!!!」

他愛のない会話を切り裂く様な雄叫びと共に、とんでもない破壊音。
機械を破壊して、壁をぶち抜きそうだ。
壊した所で俺が金を払う訳じゃねぇから良いんだが…。

「…そのうち壊すんじゃねぇか?」
「違いない」

そういえばあれだけが、唯一T.Lの名前が入ってねぇ。

――腕力脚力測定機。

今時普通のゲーセンには置いてねぇだろう。
無駄に年期の入っている機械。

それの暫定トップはR.Z
今の音からすると記録は塗り替えられたに違いねぇ。
よれよれのスポンジバッグが更によれ、それを物語る。
哀れ以外何者でもねぇ。

「クソ野郎共、見たか…!!」

メダルの入ったバケツを手にさっきの一群に目をやる。
するとやたら息を荒げながら、拳を振り上げる人影。

「…ありゃ…北の…」

遠目からでも分かる、北海大の黒足のサンジ。
キックが自慢という噂は本当らしい。
メダルを貸出機に入れながら横目で覗くと、予想通り測定機が新記録を叩き出していた。

「SANっと…」

その横にいる黒髪の、眼下にクマのある奴。
見た事はあるんだが…名前は知らねぇ。
だが、よくこのゲーセンに来る事は確か。

「どうしてだか、このR.Zとか言う奴には負けたくねェ」
「…負けず嫌いだな、サンジ屋」

擦れ違い様に耳にする会話。
空になったバケツを手にカウンターに戻る。

「…っとに…あいつらよく飽きねぇな」
「キッドも試してみたらどうだ」
「あんな化物と一緒にするんじゃねぇ」
「お前も昔はそうだっただろう」

俺とキラーは高校の同級生。
確かにその言葉は間違っちゃいねぇが…。
昔の話だ、今は関係ねぇ。

ともかく会話に花を咲かせていれば、

「R.Zがどんな奴か聞いてみたらどうだ?
記録更新する度にすぐ塗り替えられるんだろ」
「まぁ…そうなんだけどな…」

カウンター横をあの一団が通り過ぎて行く。
自動ドアが開くと同時。

「上がりのじか……キッド?」

クマのある奴が、振り返る様に…いや、名残惜しげに一瞬俺を見た。

「…あぁ」

それは、いけ好かない目付きだった。
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