*:*:* ANGEN *:*:*
□離別
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白いシーツをそっと撫でてみる
そこに温もりはなく、ただシーツの冷たい感触だけが伝わってきた
幾度となくここへ足を運び、少しでも笑顔でいて欲しくて自分の事を話した
それで笑ってくれるなら
そう思い、一緒に来られない人の分も馬鹿な話をした
「無理、しなくていいよ?」
そう言った一言が忘れられなくて
微笑みながら言う顔が忘れられなくて
無理をしているのはどっちだか
それなのに、俺はうんとしか答えられなかった
同じ事を言い返せば、きっと泣き崩れ、不安を訴え、俺はどうしてやる事も出来なかっただろう
今更だが、そうしていれば、少しでも心が軽くなっていたのかもしれないと思うと後悔の念が募る
「私、こうして洋貴と一緒にいられるだけで幸せだし、元気になれるから。」
痩せていく姿を見るのが辛く、少し足が遠のいた事もあった
すると、同情を得るどころか、逆に周りから叱咤された
俺の方が辛いと思っているのかと
誰の為に闘っているのかと
その通りだ
本当に辛いのは俺じゃない
その日は雨だったけど、自分の体の事など考えず、傘も差さずに走った
部屋に着くとびしょ濡れで、怒られながらタオルを渡された
でも、その顔すら愛しくてそのまま体を抱けば同じように濡れてしまうとわかっていたが、実感が欲しくてそうせずにいられなかった
「洋貴が具合悪くなっちゃったら私が悲しくなるからもうこんな事しないで?」
自分が濡れるのを気にも止めず、細い腕で俺の背中を優しく撫でてくれた
あの時抱き締めた体はとても温かかった。
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