SITENHOJI

□Go out in the rain
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しとしと降る雨にうたれながら思い出したのは、




いつだって俺の傍に居てくれた心地よい温もりと




きらきら輝く笑顔だった。




















Go out in the rain

























深夜2時過ぎ。




隣ですやすやと気持ち良さそうに眠る謙也さんを起こしてしまわないようにそっとベッドを抜け出す。




途中で謙也さんが起きてしまうんじゃないかという不安とこれからしなくちゃならない事のせいで胸が痛い。




ずきずき、ずきずき




でも自分で決めたことだから。
謙也さんと俺のためにやらなきゃならない。




気を抜けば目に涙が溜まりそうになるから、下唇を噛んで涙を引っ込めた。
それから謙也さんの部屋に少しだけ置いていた自分の物をカバンにつめてカバンはドアの近くに置いておく。




部屋を見渡せばいつもと何も変わらない空間だった。
でも色々な思い出がこの部屋に詰まってる。




謙也さんから告白されたのも、
初めてキスをしたのも、
初めて抱かれたのも、
全部全部この部屋だった。




付き合ってもうすぐ1年と半年がたつのにまるで昨日のことかのように全てが思い出せる。




自分が女々し過ぎて少し自虐的に笑ってから
こんな余裕はないのだと気付きベッドの上に置かれてる謙也さんのケータイを手にとる。




本当は紙に書いていこうと思ったけどきっと気付かれる可能性が低いからやっぱりケータイにした。




前にお揃いで買ったケータイ。
色まで一緒ではないけど同じ機種だから使い方はわかる。
メールのボタンを押して新規作成を選択。
宛先も件名もなにも入れずに本文に一つだけ文章を打った。




(これで、よし。)




謙也さんのケータイを元の位置に置いて、準備は万端。
あとは俺が居なくなるだけ。




押し寄せる罪悪感と悲しみに潰れてしまいそうになりながらも、
最後に謙也さんの唇に触れるだけのキスをしてドアに向かった。




置いていたバックを手にとって後ろを一度だけ振り返れば相変わらず気持ち良さそうに眠る謙也さんの姿が目に入る。




“大好きでした”




俺の小さな呟きは静かな部屋に少しだけ響いた。



























あれから静かに謙也さん家を抜け出して今現在は自分の家に向かっている。




謙也さん家を出て少ししてから降りだした雨。
傘なんて持っているはずもなく俺はただ雨にうたれながらゆっくり歩いてた。




謙也さんケータイ見てくれたかな、
だとか
追いかけてきてくれへんかな、
なんて頭の隅で考え始めてる自分が嫌で頭を軽く降れば
髪から水滴が落ちてきた。




髪から落ちた水滴が頬に落ちてその生温さに顔をしかめた時に自分の頬の冷たさに気付いた。




頬を流れる水滴だけ温かい。
あぁ、泣いてたんか。




雨のせいで気付かなかった。
いや、気付いてないフリをしてた。




だって、こんなに女々しい自分を俺は知らない。
たかが謙也さんとお別れしただけやん。




明日からはいつもの日常に戻るんや。
受験に向けて勉強して、放課後は部長として部をまとめながらテニスをして。
帰ってからご飯を食べて風呂に入って寝るだけ。
それを毎日繰り返すだけやん。
ただ



なのに、なんで?
なんで俺は泣いとるん?




寂しいから?
苦しいから?
それともまだ、




謙也さんが、




好きだから?




「………ふっ、…っ…」




涙が、止まらない。




俺達の間には絶対なんて、ましてや永遠なんてありえない。
だって普通の恋愛とは違うから。
紙1枚で繋がれるわけじゃない。
指輪をしてたって不安なものは不安。
どれだけ愛を囁かれたって信じられない。
お互いいつ心変わりがあるかもわからんから。
だから、本当はいつも怖かった。




せやけど、




俺が一番怖かったのは、謙也さんが俺から離れた時。




俺にはもう謙也さんしか見えへん。
あの人が居らんくなったら俺はきっと生きてけへん。




せやからまだ傷が浅いうちに離れておけばほら、
まだマシやろ?




…なんて、
ほんまは俺が臆病なだけやんな

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