俺がヘタレなんが悪いんか、
それとも彼のノリのよさが悪いんか、俺には未だわからない。
ほんの少しのいたずら光とのダブルス練習を終えて汗だくになった練習着を変えるついでに頭でも濡らしていこうと思い、水飲み場に行って蛇口をひねったそのとき。
「け・ん・や・くんっvV」
「あ、こは…」
ゴンッ
聞き覚えのある声に俺が振り向こうとしたとき、背後からの衝撃に耐えられずに俺は蛇口がくっついている壁に顔面をぶつけた。
「ぶっ!!〜〜〜っ!」
蛇口がくっついてる壁はやっぱり固くて一瞬鼻が折れたんじゃないかと疑ったがそんなはずもなく、とりあえず鼻から血がでていないかを確認してからさっき背後からぶつかってきた小春と向き合う。
「だ、大丈夫!?ワテのせいよね、堪忍!!」
「…だ、大丈夫やで!小春のせいやない俺のせいやし気にせんといて!なっ?」
「で、でも…」
「ほんまに大丈夫やって!」
いつもニコニコしとる顔以外見たことない小春が泣きそうな顔をしとるもんだから正直焦った。(こんな場面ユウジに見られたら確実に俺シバかれるわ)
その泣き顔をどうにかしてあげたくて俺はいつも通りの笑顔を作ったが、うまく笑えない。
さっきぶつけたばかりの鼻と唇がズキズキしてごっつ痛い。
あぁ、小春!ほんまお願いやからいつも通り笑ってや!
「ほんまに大丈夫…?」
「大丈夫やって!」
「……そう?でも顔ひきつっとるで?」
「き、気のせいちゃう?お、俺いっつもひきつっとるやん!」
いっつもひきつっとるとかどんだけやねんッ!
実際にそないなやつ居ったら怖いわ。
なんて自分にツッコミをいれて、とりあえず小春の手をにぎった。
「ほら、そないな泣きそうな顔せんでいつも通りの笑顔の方がかわええで!」
「っ!!」
「とりあえず笑いや、なっ?」
「お、おん…」
そういうと小春はいつも通りの笑顔をみせてくれた。
…よし、これで一件落着や。
「でも、」
「ん?」
「謙也くんがワテのことかわええって言うてくれるとは思わなかったわぁvV」
「え……」
「小春嬉しいvV」
「………。」
…どないしよ。
これやばいんちゃう?
俺絶体絶命の危機やないか…!
なんちゅーこと口走ったんや!
これを光に聞かれたら…
『謙也さんは俺より小春先輩の方がええんすね。よーわかりましたわ。ほな、どうぞご勝手に』
あああああ!
ヤバいで!
これはごっつヤバいで!?
「……あらん?やっぱりまだ痛いんやない?」
「へ?」
「ほら、ここ。赤く腫れてきとるやん」
そう言って小春は俺の唇を指で軽くなぞった。
「△●£◇∀Υ○★∂!?」
「日本語になってへんよ?こんくらいで顔赤くしちゃって…謙也くんてばウブねvV」
誰でもええからこの現場にきてくれへんかな。
小春を止めてくれ。
…でもまさか小春にこんなことされると思わんかった。
あぁ、もう!
俺の心臓静かにしぃや!!
「鼻も赤くなっちゃって…。あたしが治してあ・げ・る☆」
「え…?ちょ、なにするん!?」
「なにって、ナニやろ…?」
小春がいつも以上にニコニコ笑ってる。
この笑顔はアレや。白石と同種の黒い笑みや。
ってちゃうわ!なに冷静に分析しとんねん!俺!!
気がつけば小春の顔がどんどん近づいてきていた。
……もうアカン…ッ!
つんっ
「……?」
「なんてね。ちょっとした冗談やってvV」
どうやら鼻をつつかれただけで終わったらしい。
「さて、と。あたしそろそろ戻るわね。お先〜☆」
そういうとニコニコ手を振りながら小春はコートに帰っていった。
「…なんやねん、アレ…」
一方の俺は足の力が抜けてその場にへたりこんだ。
心臓ばくばく言うとるし、顔熱いし…。
やから俺ヘタレなんやな。
当分コートに戻られへんやん。
でも、この場に光がこぉへんでほんまによかった。
ただただ俺はそれだけを神様に感謝した。
その一方、小春がユウジに要らんことを話しているのを俺はまだ知らない。
「小春〜!!どこ行っとったん!?めっさ探したんやで!」
「あぁ、ちょっと謙也くんと危ない遊びをしてただけよvV」
「はぁぁああ!?ちょ、それはどうゆう意味やねん!」
「どうもこうもそのまんまの意味よvV」