AsgarD‐アスガルド‐
□第1章
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空には大きな満月が浮かんでいた。
その淡い光のおかげで、真夜中でも周りが良く見える。
ガルズ王国にある小さな村。
“イオリア”
そこが一望できる小高い丘に立って、無表情で村を見下ろす一人の男が居た。
闇を連想させる漆黒の瞳と髪。
冷たく光るその瞳は、まるで黄泉からの使い……死神だった。
乾いた風が丘を吹き抜け、男の頬をなでる。
その瞬間鼻をかすめた血の匂いに、彼、ジーク・エアリスは口元をつり上げた。
「隊長」
後ろから青年が駆け寄って来る。
まだ少年の面影が残る顔。
少し吊り上がった目は、生意気な彼の性格が見て取れた。
「任務完了しました」
そう言って敬礼した青年の後ろから10数名の男女が歩いて来る。
ジークも含め皆、黒い軍服を身に纏っていた。
ジークは村を見下ろしながら、青年に聞いた。
「生存者は?」
「ありません」
「見落としてねぇだろうな?」
「はい」
「……ならいい」
振り返って数十名の隊員達に向き直った。
目の前に整列する彼等に、ジークは静かに言う。
「さあ、最後の仕上げだ」
「跡形なく焼き払え」
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