風吹きぬける大地W

□砂漠からの来訪者U
3ページ/129ページ

そして今、レオとミレイは砂漠にある遺跡に来ていた。


ミレイには石の扉と石碑……らしきもの、としか分からない。


だがレオには違うらしい。しきりに触り、メモを取っている。

「なーんか……すっごい楽しそう」

傍目には分からないが、レオは目を輝かせている。

レオを何も知らない人が見たら、不機嫌そうにしか見えないだろうが。


先程も、ファイヤエレメントというらしき魔物をあっという間に、文字通り蹴散らしている。

しかもその時のレオは「調査を邪魔するな」という鬱憤もあったのか、より不機嫌そうに見えた。


『まあ、レオだし』

『レオだし、ね』

ここにはポケモンがいないため、ディアとニュイは魔物と間違えられると討伐の対象となる。

もちろん2匹が簡単にやられるわけはないが、面倒なことに変わりはない。そのためレオのボールの中で待機中だ。


そのため、ミレイは少し離れたところの石に座り、レオのことをぼんやりと見ているだけ。


携帯電話という技術もないため取り出すわけにもいかないし、本を読むという趣味もない。


至極つまらないが、レオを見ているというだけで気分は紛れる。



それにレオが楽しそうにしているのを見るだけで、ミレイも楽しくなる。


そんなことだから、背後から来てくる一行に気付くことはなかった。


『ミレイ』

『後ろ』

「へ?」

2匹の声に、ミレイは呆けた声を出して背後を振り向いた。


「素晴らしい!」


ミレイの横を、どたどたと駆けていくのは同い年くらいの女性。


「見ろ、この扉を! 周りの岩とは明らかに性質が違う!」

「ほう、分かるか」

レオは、その銀髪の女性に柳眉を僅かに上げ、笑みを浮かべた。

「当然だ! これは古代大戦時の魔術障壁として開発されたカーボネイトだろう!」

「古代大戦のものが未だ機能しているということにも驚きだ。数十年誰かが立ち入った形跡もないというのに……これもマーテルの加護、というやつだろうか」

「かもしれん、ここは封印の祭壇があるからな。……ああ、それにしてもこの滑らかな肌触り……見事だ❤」

語尾にハートがつきそうな口調。



「……いつもこうか?」

「……そう、なのか?」

「ああ……隠してたのに……」

女性の連れらしき、鳶色の髪の男性と少年の言葉に、銀髪の少年ががっくりと肩を落とした。


「……えっと」

ミレイは逡巡してから、立ち上がった。

「私ミレイ。あなたたちは?」

それから自己紹介。

せっかく出会った人たちなのだから、仲良くしたいのだ。


これがレオだったら、全然違った対応であっただろう。


「オレはロイド・アーヴィング」

「コレット・ブルーネルです」

鳶色の少年と金髪の少女が、同じように挨拶をした。

「……僕はジーニアス。あっちは姉のリフィル・セイジ」

少年の元気が若干ないのは、姉の言動のせいだろう。

「……クラトス・アウリオン」

最後に、沈黙に耐えかねた……というより子供たち(ミレイ含む)の純粋な視線に耐えきれなくなったのだろう、男性が名前を告げた。

「それで、ミレイはどうしてここに?」

「私の連れ……レオがね、遺跡とか大好きなの。それでここに来たんだけど……」

苦笑いし、ミレイはレオとリフィルの方を見る。


「……しかし、だとするとカーボネイトを使う意味が分からん。何故わざわざ……」

「……なら、逆に考えてはどうだ? 天使がカーボネイトをもたらし、それを人間が利用したとすれば……」

「人間ではなく天使が……成程。だがそうすると、天使が介入する意味が分からない。むしろ盗まれた、とした方が自然だ」

「盗んだ……? だが、クルシスは今もこうして世界再生の神子を送り出している。技術を強奪した相手にこのようなことをするだろうか」

「恨むはずの人間を救う、か……」

「それなら、天使が技術をもたらしたと考える方が自然ではないか?」

「……そうか。だとすると、魔術障壁として開発されたのではなく、障壁の方が副産物だったのかもしれないな」

「そうか、その考えもあるか!」

何やらあっちはあっちで分かり合ったらしい。


レオも珍しく、話が分かる相手が見つかって嬉しそうだ。


「……凄い、遺跡モードの姉さんと張り合ってる」

どうやら、その驚きはジーニアスも同じだったらしい。


「ん? このくぼみは……神託の石版と書いてあるな」

「ああ、神子のマナに反応して扉が開くんだろう。残念ながら……」

「いや、それなら……コレット!」

「は、はい!」

突然呼ばれたコレットが、反射的に背筋を伸ばした。

「ここに手をあてろ。それで扉が開くはずだ」

「ホントかよ」

それに疑わしげなロイド。

「これは神子を識別するための魔術が施された石版だ。間違いない」

言われた通り、コレットがその石版に触れる。


すると、カーボネイトの扉が開いた。


「開きました! 凄い、なんだか私、本当に神子みたいです!」

「神子なんでしょ、もー」

「よーし! ワクワクしてきたぞ、早く中に入ろうぜ!」

「……その集中力が続けば良いが」


何やら中の良い一向に、ミレイも自然と笑みがこぼれる。


「ほら、行くぞノイシュ!」

「クゥ〜ン」

しかしロイドが連れていた動物は、尻込みして前に進もうとしなかった。

「……ノイシュは魔物に敏感なのだろう。今後も魔物がいるような場所では充てにしない方がいい。かわいそうだ」

「まったく、臆病だよなノイシュは」

クラトスの助言に、ロイドは大人しく従う。


レオはちらりと、そのノイシュという動物に視線をやった。



この中に魔物がいるのは間違いない。


だが、あの動物はそれよりもレオの存在に怯んだように見えた。



.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ