風吹きぬける大地W
□砂漠からの来訪者U
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そして今、レオとミレイは砂漠にある遺跡に来ていた。
ミレイには石の扉と石碑……らしきもの、としか分からない。
だがレオには違うらしい。しきりに触り、メモを取っている。
「なーんか……すっごい楽しそう」
傍目には分からないが、レオは目を輝かせている。
レオを何も知らない人が見たら、不機嫌そうにしか見えないだろうが。
先程も、ファイヤエレメントというらしき魔物をあっという間に、文字通り蹴散らしている。
しかもその時のレオは「調査を邪魔するな」という鬱憤もあったのか、より不機嫌そうに見えた。
『まあ、レオだし』
『レオだし、ね』
ここにはポケモンがいないため、ディアとニュイは魔物と間違えられると討伐の対象となる。
もちろん2匹が簡単にやられるわけはないが、面倒なことに変わりはない。そのためレオのボールの中で待機中だ。
そのため、ミレイは少し離れたところの石に座り、レオのことをぼんやりと見ているだけ。
携帯電話という技術もないため取り出すわけにもいかないし、本を読むという趣味もない。
至極つまらないが、レオを見ているというだけで気分は紛れる。
それにレオが楽しそうにしているのを見るだけで、ミレイも楽しくなる。
そんなことだから、背後から来てくる一行に気付くことはなかった。
『ミレイ』
『後ろ』
「へ?」
2匹の声に、ミレイは呆けた声を出して背後を振り向いた。
「素晴らしい!」
ミレイの横を、どたどたと駆けていくのは同い年くらいの女性。
「見ろ、この扉を! 周りの岩とは明らかに性質が違う!」
「ほう、分かるか」
レオは、その銀髪の女性に柳眉を僅かに上げ、笑みを浮かべた。
「当然だ! これは古代大戦時の魔術障壁として開発されたカーボネイトだろう!」
「古代大戦のものが未だ機能しているということにも驚きだ。数十年誰かが立ち入った形跡もないというのに……これもマーテルの加護、というやつだろうか」
「かもしれん、ここは封印の祭壇があるからな。……ああ、それにしてもこの滑らかな肌触り……見事だ❤」
語尾にハートがつきそうな口調。
「……いつもこうか?」
「……そう、なのか?」
「ああ……隠してたのに……」
女性の連れらしき、鳶色の髪の男性と少年の言葉に、銀髪の少年ががっくりと肩を落とした。
「……えっと」
ミレイは逡巡してから、立ち上がった。
「私ミレイ。あなたたちは?」
それから自己紹介。
せっかく出会った人たちなのだから、仲良くしたいのだ。
これがレオだったら、全然違った対応であっただろう。
「オレはロイド・アーヴィング」
「コレット・ブルーネルです」
鳶色の少年と金髪の少女が、同じように挨拶をした。
「……僕はジーニアス。あっちは姉のリフィル・セイジ」
少年の元気が若干ないのは、姉の言動のせいだろう。
「……クラトス・アウリオン」
最後に、沈黙に耐えかねた……というより子供たち(ミレイ含む)の純粋な視線に耐えきれなくなったのだろう、男性が名前を告げた。
「それで、ミレイはどうしてここに?」
「私の連れ……レオがね、遺跡とか大好きなの。それでここに来たんだけど……」
苦笑いし、ミレイはレオとリフィルの方を見る。
「……しかし、だとするとカーボネイトを使う意味が分からん。何故わざわざ……」
「……なら、逆に考えてはどうだ? 天使がカーボネイトをもたらし、それを人間が利用したとすれば……」
「人間ではなく天使が……成程。だがそうすると、天使が介入する意味が分からない。むしろ盗まれた、とした方が自然だ」
「盗んだ……? だが、クルシスは今もこうして世界再生の神子を送り出している。技術を強奪した相手にこのようなことをするだろうか」
「恨むはずの人間を救う、か……」
「それなら、天使が技術をもたらしたと考える方が自然ではないか?」
「……そうか。だとすると、魔術障壁として開発されたのではなく、障壁の方が副産物だったのかもしれないな」
「そうか、その考えもあるか!」
何やらあっちはあっちで分かり合ったらしい。
レオも珍しく、話が分かる相手が見つかって嬉しそうだ。
「……凄い、遺跡モードの姉さんと張り合ってる」
どうやら、その驚きはジーニアスも同じだったらしい。
「ん? このくぼみは……神託の石版と書いてあるな」
「ああ、神子のマナに反応して扉が開くんだろう。残念ながら……」
「いや、それなら……コレット!」
「は、はい!」
突然呼ばれたコレットが、反射的に背筋を伸ばした。
「ここに手をあてろ。それで扉が開くはずだ」
「ホントかよ」
それに疑わしげなロイド。
「これは神子を識別するための魔術が施された石版だ。間違いない」
言われた通り、コレットがその石版に触れる。
すると、カーボネイトの扉が開いた。
「開きました! 凄い、なんだか私、本当に神子みたいです!」
「神子なんでしょ、もー」
「よーし! ワクワクしてきたぞ、早く中に入ろうぜ!」
「……その集中力が続けば良いが」
何やら中の良い一向に、ミレイも自然と笑みがこぼれる。
「ほら、行くぞノイシュ!」
「クゥ〜ン」
しかしロイドが連れていた動物は、尻込みして前に進もうとしなかった。
「……ノイシュは魔物に敏感なのだろう。今後も魔物がいるような場所では充てにしない方がいい。かわいそうだ」
「まったく、臆病だよなノイシュは」
クラトスの助言に、ロイドは大人しく従う。
レオはちらりと、そのノイシュという動物に視線をやった。
この中に魔物がいるのは間違いない。
だが、あの動物はそれよりもレオの存在に怯んだように見えた。
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