風吹きぬける大地W
□さて、これは何度目?
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今まで霞がかっていたというのに、それが突然晴れた。
どうして今まで忘れていたのだろう。
決して忘れてはいけなかった人の名。
「………!」
しかし、言葉が出ない。
こんなにも近くにいるのに。
視線が合う。
それだけで、彼の考えが分かってしまった。
どうして思い出すんだ
そのまま忘れていた方が幸せだろうに
「……んなわけ、ないだろ」
苦労して、ようやくマサはそれだけ絞り出した。
「勝手に……決めんなよ……。それに……お前の、幸せは……どうなんだよ……」
「俺の幸せは、」
返答を期待していなかった。
だが、彼……レオは真っ直ぐマサを見て、言葉を紡ぐ。
「お前が……お前らが俺のことを忘れ、何事もなく暮らしていくことだ」
「そんなの……!」
「分かってる。これは俺のエゴだ。だが……譲れないんだよ」
そう言うレオの顔は、離れていてもどこか悲しそうに見えた。
「だというのに……何で思い出してしまうんだろうな」
「へへっ、執念の勝利ってやつだな」
「ああ、成程。俺には縁遠い言葉だな。……お前らしい。……だから、パイラには来たくないんだ。お前、せめて定位置変えろ」
「やだね」
マサは笑う。
「お前、結構パイラに来てんじゃないか。何か用があんだろ? ってことは、何度もレオに会えるじゃないか」
「……かもな」
釣られ、レオも表情を僅かに和らげた。
「……でもな、俺も……目的のためには手段を選ばないんだ。……許してもらおうとは思わない。何度でも、繰り返してやる」
「ハッ、俺の執念深さを舐めんじゃねーぞ。レオ……俺は、絶対に……諦めねえ。何度だって……お前のことを思い出してやる」
何か大事なことを忘れている気がする。
それが何なのか、マサ本人にも分からない。思い出せない。
だが何か、とても大切なことだということだけは分かる。
早く、思い出さなければならないのに。
時間ばかりが過ぎていく。
END