風吹きぬける大地W

□彼がここにいる理由
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タイミング良く、クリスタルとエメラルドはフィールドワークでいないらしい。研究所はオーキド博士1人だった。

突然の来訪だが相手が孫と、孫同然のように思える子供たちということもありオーキドはすぐに招き入れてくれた。

「レッドのことじゃと?」

「ああ。レッドがマサラに来たときのこと、教えてくれないか?」

「そうは言われてものう……ワシも、レッドがどうして来たのか知らんしのう」

「え、そうなの!?」

てっきりオーキドだったら知ってると思ったのに、宛てが外れた。

「博士、レッドが来たときのこと詳しく教えてくれませんか?」

オーキドは顎を撫で、当時のことを思い返す。

「……とはいっても、ワシが見つけたわけじゃないからのう。何でも、見たことのない緑色のポケモンに乗って来たというが」

「ポケモンに、ですか?」

緑色のポケモンというと、草系が思いつく。

しかし子供とはいえ人が乗れて空を飛べる草系ポケモンはそういない。

飛行タイプも持つハネッコ、ポポッコ、ワタッコだって力不足だ。

「……フライゴン、とかか?」

ぽつりと漏らしたグリーンの言葉に、オーキドは手を打つ。

「おお、そうかもしれんの」

「え、レッドさんはフライゴンを持ってたんですか?」

「いや。そのポケモンはレッドを下すとすぐに飛んでいってしまったそうじゃ」

「そうなんですか……。あれ、でもレッドさんって、ご両親は……」

「……詳しくは、話してくれなかった。恐らく本人も分かっていなかったじゃろう。ただ泣きそうな顔で、ここまで来れば安全だから住まわせてくれ、とだけ言っての。ワシに本を買ってくれるよう頼んできた」

「本?」

オーキドは一端2階へと上がって行った。

そして戻ってきたとき、古ぼけた本を1冊抱えていた。

「それが、その本なの?」

それを受け取ったブルーが、丁寧な手つきで表紙を捲る。

そして息を呑んだ。

「これって……」

「何だこりゃ?」

隣りでグリーンも目を剥く。ただイエローとゴールドは意味が分からなかった。


それは、今では廃れた文字で書かれていたのだ。


博物館で展示されていてもおかしくない。もしかしたら文字の研究もこれで進むかもしれない、そんな本だ。


「……これを売ってお金に換えて、当面の衣食住に充てたいと、な。他にもレッドは、色々と持っていたらしい。今では喪われているとされる書物や、時価数百万というアクセサリーを、な……。まあ、ワシはアクセサリーには詳しくないがのぅ」

だか、どう考えても子供が持っているようなものではない。

「……そんなものを、レッドが?」

「無理矢理、持たされたそうじゃ」

誰に、とは言わなかった。


恐らくは両親なのだろう。

死期を悟った親が、精一杯の物を持たせて子供を逃がした。


そんなところだろうか。


「レッド先輩って、実は金持ちだったんスかね?」

「かもしれんがのう……そんなに受け取るわけにもいかんしのう。この本を1冊預かって、たまたまあった空家に住まわせて、近所の連中で面倒を見ての。……養子に、という話もあったんじゃが、本人が頑として譲らなかった」

それが、この本。

ということは、レッドは今も本や装飾品を持っているのだろう。

「……そんなことが、あったんですか」

「まあ、ワシがレッドと会ったのもそれっきりで、あのときの子供だったってことは忘れとったんだがの」

そう、オーキドは締めくくった。










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