風吹き抜ける大地X

□2人なら
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村の神聖な場所とされているためか、聖なる祠周辺は常に人気がない。


「……なあセレビィ、どう思う?」

普段は用がないくせに、こういう時に限って出てこない。


自由気侭な森の精に嘆息するが、それが在り難くもあった。


「大体俺に子供って……想像したくない」


「ちょっとそれ、どういうこと?」


背後から来るミレイの気配に気づかない程、レオは動揺していたらしい。


再度嘆息し、ミレイと向き合う。


「言葉通りの意味だが」

「わ、私は……」

ミレイは頬を赤くし、ぼそぼそと聞き取りずらい音量で言う。

「私は……好きな人と一緒にいて、それで……家庭を持てたらって……考えるよ。レオは……どうなの?」

「……家庭、か」

レオは祠に寄り掛かり、呟く。

「……俺には、分からないな」

「分からないって……」

「……何というか、な」



レオが手を伸ばす。



しかしその手は、ミレイに触れるか触れないかというギリギリの位置で止まった。



「……まだ俺は、お前に触れるのが怖い」

それは、過去の罪のせいなのか。それとも別の理由があるからなのか。



だからミレイは、その手を取る。



「ねえ、これでも怖い?」

「……いいや」

ゆるやかに、レオは頭を振った。

「私は、レオとずっと隣にいたいの。レオもそうでしょ?」

「……ああ」

「だから、さ……その先のこと、考えるの……変?」


むしろ、この距離で長くいすぎたような気がする。




もうあれから何年もの時間が経っているというのに。

未だレオは一か所に落ち着かず、ミレイもレオにひっついて旅を続けている。




その間、一夜の過ちなんてことが起こることもなく。


未だミレイがユニコーンに会える資格があるということで驚かれたりもした。



「……ミレイとの将来……考えたことがない、わけないだろ……」


そう吐き出すレオはどこか苦しげで。


「だがな、そう考えると……どうしても、俺の罪と……血筋のことが頭を過ぎる」

レオの血族。


それは古の技術を、深淵の術を現代まで伝える一族。


その中でも飛び抜けた才を持つ……持たされたのがレオだ。



「俺は、あの技術を後世に伝えるつもりはない。……だが、持って生まれる才は別だ。恐らく、俺の否応なしに……俺の血を継ぐ者は優れた素質を持つだろう。……否応なしに、巻き込まれる」

「レオ……」

「それに、な……。……ミレイと俺の間に、子が出来たとして……母体にも影響がある、かもしれない」

「……どういう、こと?」

レオは一度、唇を噛み締める。

「簡単に言えば、生命力が強すぎて本来母親に回るべき栄養も奪い取ってしまう……かもしれない、ということだ。つまり、下手したら母親は死ぬ」

そうはっきりと言われ、ミレイの表情が青ざめる。


しかし、その瞳に揺らぎはなかった。


「……でも、かもってことは絶対、じゃないんでしょ? どうにか出来る方法がある。……でしょ?」

ミレイの言葉に、レオは僅かに表情を綻ばせた。

「……ああ」

「なら、問題なし! そうでしょ!?」

あっという間に笑顔になるミレイを、レオは少し羨ましく思った。



レオには、こんな簡単に切り替えが出来ないのに。



「……単純」

「いーの! 複雑に考えすぎてドツボに嵌るより、よっぽどいいと思わない?」

「……確かに」

レオが、喉を鳴らす。

「これは……覚悟を決めないと、な」





風が吹いた。





「……え?」

何をされたのか分からず、ミレイは茫然と眼前のレオを見つめる。

対しレオはニヤリと口角を上げ、ミレイの頭を軽く小突いた。

「ミレイが、言ったんだぞ。問題ない、とな……」

「……え、あ……」

「俺は、覚悟を決めた。……ミレイは、どうだ?」

真っ赤な顔のミレイを、間近で覗き込む。

「……わ、私は……」


言葉が出ない。

代わりに、ミレイは行動で示した。



それは、触れるか触れないかあやふやなもの。




それでもレオには伝わった。





これで恥ずかしがり屋なミレイからすれば、とても勇気が必要だっただろう。


だからレオも答える。


ミレイの小さな体を抱きしめる。









森の精霊が、祝福するかのようにひらりと姿を現し……消えた。













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