風吹き抜ける大地X

□これが記念日
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ほんの10年前はとても治安が悪かったパイラタウン。

しかし今はONBS……元コドモネットワークのメンバーとギンザルが中心となって、平和な町となっている。




――――表向きは。




元々の町民の気質なのか、「由緒正しき」破落戸はいなくなることなく、町中央の決闘広場には常にトレーナーがうろついている。


しかし、以前のように人攫いや人身売買が横行しているわけではない。

治安は悪いくせに堅気の人間にはあまり被害がないのだ。


「マサに会ってく?」

「別にいいだろ」

未だにパイラの破落戸達の頂点に立っているマサのことを思い、レオは苦笑する。

「わざわざ会いにいくまでもない」

「あ、そ」

冷たいように受け取れる言葉だが、信頼に満ちている。


会う必要がないくらい、近況を報告し合っているということだろう。


「……ねえレオ」

「ん?」

「決闘広場、行ってみようよ」


断る理由はなかった。














「マグカルゴ、火炎放射!」

「オドシシ、催眠術!」

広場では今日もポケモンバトルが盛んだった。

「あれ、あのマグカルゴって……」

「オドシシも、だな。昔俺がスナッチしたダークポケモンだ」


レオは、結局スナッチしたダークポケモンを総べてリライブし終えた後、全て逃がした。


手元に残ったのは昔からの付き合いであるディアとニュイ。それにトルエノ、クレンテ、フラムの計5匹。しかし伝説と称されるポケモン3匹も常に手持ちにいるわけではない。

彼らとはあくまで契約関係であり、ボールを介した主従関係ではないのだとレオは言い張る。


「新しいトレーナーと、仲良くやれてるみたいだね」

でなければ、あのポケモンたちも大人しくトレーナーの指示に従うわけがない。



いくら彼らが解放されたとはいえ、ダークポケモンとして改造された記憶がなくなるわけではないのだから。



「……ねえレオ」

「何だ?」

「もし、私がここでダークポケモンを見なかったら……どうなってたかな?」

「さて」


そんな無意味な“IF”に、レオは嗤う。


「何も知らずアゲトビレッジに行って、何も知らないまま実家に帰ってたんじゃないか?」

「レオと会わないまま?」

「じゃないか? まあセレビィに会いにアゲトビレッジには行ってたかもしれんが、お前と旅をすることはなかっただろうな」

「そっか。……じゃあ、ダークポケモンに感謝しないといけないかもね。不謹慎だけど」

「どうしてだ」

「だって、ダークポケモンがいたから私たち出会えたんじゃん」

「………」

「私がここでダークポケモンを見ちゃって、ミラーボに攫われたからレオに助けられたんだし……あれ? ってことはミラーボがキューピット? それは嫌かも」

「……ということは、俺がスナッチをしなければダークポケモンも生まれなかった、かもしれないんだな」

「……レオ」

ぺちん、とレオの頬にミレイは手を当てる。


痛みとも言えない感触は、レオを現実に引き戻すためのもの。


「レオがスナッチしてなくても、きっと他のスナッチ団の人がシャドーにポケモンを渡してたよ。……むしろ、レオがスナッチ団にいたから、ダークポケモンをスナッチできたんじゃん」

「……ミレイ」

「全く、後ろ向きなところは変わらないんだから」

「……フン」


それにレオは否定も肯定も出来なかった。













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