仮想と現実V
□オトモダチ
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何故か初対面の、年上の女性と待合室の長椅子に隣り合って座っている。
そもそも亮は学校でもあまり女生徒と会話しない……というより向こうから避けているし、ここ8カ月は学校でほとんど誰とも会話していない。
まともに会話を交わしたのは、リアルでパイ……佐伯令子と会ったときと、主治医くらいではないだろうか。
それなのに、見知らぬ女性が横に座って……という状況で会話が続くのだろうか。
だが何故か、亮にはこの女性と初対面という感じがしなかった。
「ごめんね。でも、何故か君とはゆっくりお話がしたかったの。私、荘司杏。君は?」
「三崎……亮」
「亮君ね。よろしく」
「あ……こちらこそ」
荘司杏。
どこかで聞いたことのある名前。
物忘れだなんて珍しいと自分でも思う。
絶対知っているはずなのに思い出せないこのもどかしさ。
「不思議だね。なんか、君とは初対面のような気がしないんだ。……前、会ったことない、よね?」
「……だと思います」
何故か胸がちくりと痛む。
「俺、年上の女性とほとんど話したことないし……」
「そうなの? 君なら女の子が放っておかないと思うけど」
「……そういうの、興味ないし。クラスでも話す奴いないから」
「そうなんだ……」
その理由を杏は聞かなかった。
思い当たる節があったのだろう。
「ならさ、私と話相手にならない?」
「あなたと?」
「あ、別にナンパってわけじゃないよ? だからさ……お友達にならない?」
「お友、達……?」
記憶の橋にその単語が引っかかる。
ようやく、この女性を知っているような理由が分かった。
「あ、やっぱり突然だった?」
すると杏はどこか懐かしそうに微笑む。
「でも君とは、いいオトモダチになれそうな気がするんだ。女の勘、だけどね」
どうしてすぐ分からなかったのだろう。
オトモダチだと言ってくれたのに。
「……どうかした?」
知らずに笑ってしまったらしい。
黙ったままの亮を見て、怪訝な顔をする。
「オトモダチに……なってくれますか?」
頭痛が治まった……気がした。
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