仮想と現実V
□意外な一面
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「いらっしゃいませー!」
ハセヲ同様笑顔を浮かべ、楚良が客の対応をする。
この辺りはハセヲとまったく違って自棄になっていない。
だが客入りは少ない。
やってくる客は幸運にも楚良がPKだと知らないプレイヤーばかりだろう。
尤も楚良の方はいちいちPKしたプレイヤーを覚えていない。
隣で店を開いているケストレルは早々に店仕舞いをして、こそこそと逃げるように去っていった。
問題なのは楚良に店番を任せることによって、カナードの悪評が出ないかどうかだが。
(あ、このアイテムこの値段で売ってるんだ。さっすがシラバス)
見覚えのあるアイテムの羅列だと思ったら、全てハセヲがダンジョンで拾ってきたものだ。
使わないアイテムは倉庫を埋めるだけなので、全てギルドショップに回している。
それをシラバスは相場より高めの値段に設定していた。
アイテムを買いに来たPCが去っていくと、また次の客が来る。
「いらっしゃいませー!」
次の客は珍しいことに楚良も覚えているプレイヤーだった。
朔望……望だ。
(そういえば、望とはこうして店番任されたときに会ったんだっけ)
なんて『ハセヲ』の思考しながら『楚良』としての対応をした。
「おんや〜、めっずらし〜。何がいいの?」
ニヤニヤ笑って楚良は望を見下ろす。
「あの……フリージアの花は、ありますか?」
相変わらずおどおどしながら、それでも望は逃げることなく聞いてきた。
「フリージア?」
「うん……ハセヲおにいちゃんにプレゼントしたくて」
「ふーん……。ハセヲ、信頼してるの?」
「うん」
嬉しそうに頷く望を見て、なぜか楚良はつまらなくなった。
フリージアの花言葉には「信頼」「憧れ」という意味がある。