風吹きぬける大地W

□狭間のセカイ
1ページ/3ページ

「誰だ貴様は」

「お前こそ誰だ?」

そこにいるのは、よく似た顔を持つ2人。


全体的な特徴は似通っているが、同じというには足りない。


知らない者がその2人を見れば、こう称するだろう。



――兄弟、だと。



((……気に食わない))


顔が似ている、という理由ではない。


互いが互いを受け入れられない。



「……ひとまず、名前を聞いておこうか」

「リオン……そういう貴様は誰だ?」

「レオだ」

名乗るのはトレーナーとしての礼儀。


だが、これから行われるのは間違ってもポケモンバトルではない。




潰しあい、だ。




リオンが口角を持ち上げる。それに対し、レオも唇の橋を持ち上げた。



トレーナーの意志に呼応してか互いのポケモン……サンダースとブラッキーも身構え、唸る。



ジリッ、とレオンが僅かに前に出る。

対してレオは自然体。


「行くぜェ!」


瞬時にトップスピード。

ローからハイへの蹴りを、レオは腕で防いだ。

すぐさまその足を取り、反対にレオはリオンの軸足を払おうとする。

「っ!」

だがそれは阻止される。リオンが連れていたサンダースのミサイル針に狙われ、レオは足を止めざるを得なくなる。

「貰ったぜ!」

その硬直を見逃すリオンではなかった。

逆にレオの腕を取る。

「しまっ!」


軸足を払われ、一本背負いが決まる。


「なっ!?」

だが、驚いたのはリオンの方だった。


レオの地面を踏みしめる音が響く。


レオは背中からではなく、足でその衝撃を受け止めたのだ。

下手をしたら足の骨が折れるだろうに、こともあろうにレオは投げの勢いと自らの体重を、片足で支え切った。

そのままリオンの手を払いのけ、身を捻じり懐に潜りこむ。


「がはっ!」


掌底が、リオンの腹を打ち付けた。



「て、てめえ……!」

胃液を滴らせ腹を抑えるリオンが、レオを恨みの籠った眼差しで睨む。

「鍛錬は積んでいるようだが……潜った修羅場は俺の方が上だな」

対してレオは涼しい顔。

「ケッ……見下しやがって……やっちまえ!」

リオンの叫びと共にポケモンたちが現れる。


「くっ……」

それにレオは焦りを滲ませ、もう1匹……エーフィを出した。


敵が多数なのに対し、こちらはたった2匹のみ。


「ブラッキーに……エーフィかよ。そんなところまで同じとはなぁ……」


リオンが、レオを睨む。



……違う。



レオを通して、別の誰かを見ている。


「気に食わねえ。気に食わねえ」

そう何度も呟くリオン。

「……なあ」


ようやく、リオンはまともにレオを見た。




「お前を殺せば、この世界は救われるのか?」



その言葉に、レオは思わず息を呑んだ。



普段なら冒さない、致命的なミスをレオはしでかした。



つまり、相手に隙を見せること。



「!」


気付いたときには遅かった。



背中から、地面に倒れこむ。



それでもリオンは止まらない。レオの喉を潰そうと、リオンが手を伸ばす。


「がぁ……っ!」


締め上げようとするリオンから、必死にレオは抵抗する。


エーフィがレオを助けようとするが、それはサンダースに阻まれた。


こともあろうか、サンダースは味方のはずであるポケモンさえも巻き込むような電撃を放ったのである。


そのせいで2匹ともレオを助けられない。


「お前が死ねば……お前が死ねば……」

リオンの表情が歪に歪む。



止めとばかりにさらに手に力が籠り……すぐに抜けた。



「!?」

当のリオンには、何が起こったか分からなかっただろう。


突然体が痺れだしたのだ。


力が抜けた隙を突き、レオはリオンを突き飛ばす。


地面を転がり、距離を取るリオン。


先程までリオンがいたところには、レオの足が振り下ろされていた。


まともに受けていたら骨が砕けていたであろう。とても首を絞殺されかけていたとは思えないほどの力。


何かドーピングでもしているのだろうとリオンはあたりをつけ、この体の痺れの正体も見破った。


「シンクロ、だと……」

「……ご明察」

軽く咳をしながら、レオは笑う。


見れば、レオのブラッキーが麻痺をしていた。


あのブラッキーは、耐久力の高さを生かしわざと電撃を喰らう覚悟でサンダースに攻撃を仕掛けたのだ。

そして特性シンクロを用いリオンの体を麻痺させることによりトレーナーを助けた。


だが代償としてブラッキーは麻痺をし、しかも少なからずダメージを受けている。



だが、レオ側の不利に変わりはない……はずだ。



だというのに、レオは余裕を崩さない。


「……その腕に、何を仕込んでいるのか知らないが」


その言葉で、はっとリオンは腕を抑える。




正確には、腕に装着している機械を。




「……チッ」

これは明らかな痛手だ。

どうやら跳ね飛ばされたときに、ちゃっかり傷を加えていたらしい。

「ディア、ニュイ!」

レオが叫ぶ。

「チィッ!」

リオンが気づいたときには遅かった。



閃光が迸る。



反射的に目を庇うものの、何が起こったか分からない。




何とか目を開けてみれば、そこにレオたちの姿はなかった。




逃げられた。




「……くそぉっ」


衝動を堪えられず、リオンは地面を殴りつけた。










.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ