風吹きぬける大地W

□未来への誓い
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そこはほんの数年前まで人が住んでいた。



だが、今は誰もいない。




「……兄さんは、本当に勝手だ」

「……すまん」

レオは謝るしかなかった。



そこはかつて、レッドの家があった場所。

既に人が住んでいる気配を感じさせない。


「……おばさんは受けた怪我が元で亡くなった。おじさんも心労が祟って、な……」


2人の後ろで、マサが言いにくそうに頬を掻く。


「……墓は?」

「共同墓地にあるぜ。……案内、するか?」

「いや、いい」

レオはマサに申し出に首を振った。


「……そっか。じゃあ、俺は行ってるぜ」


マサが立ち去るが、レッドとレオも振り返りはしなかった。



「……もう、ここには誰もいないんだ」

「ああ」

「一緒に勉強して、遊んで……時々怒られて……普通に暮らしてたのに……」

「……俺の、せいだ」

「やめて。兄さんのせいじゃない。……兄さんのせいじゃないんだから……謝らないでよ」

力なく首を振るレッド。

「……いや、俺が原因だ。俺のせいでここは襲われ、沢山の人間が殺された……母さんも、俺を庇って……」

「もうやめろよ!」

耐えられず、レッドは叫ぶ。

「兄さんは悪くない! 悪いのは兄さんを狙う奴らだ! 兄さんのせいじゃない……!」

「……違うんだ、レッド」

兄がどんな表情をしているか、レッドからは分からない。

「俺は村が滅びるのを予知した。だが、もしかしたら被害を食い止められるかもしれないのに、俺はそれを諦めた。この村よりも、レッド1人の命を取ったんだ」

「……兄さん」

「だから、俺のせいでもあるんだ。……村が、こうなってしまったのは」


その物言いに、レッドは息を吐いた。


「……兄さん」


そして、レオと向き合う。


「……何だ?」

「兄さんって……ホント馬鹿!」

突然怒鳴られて、珍しくレオは驚いた表情を顕わにした。

「兄さん1人で何でも出来るわけないじゃん! いくら兄さんが強くても、無理なんだよ!?」

「しかし……」

「しかし、じゃないよ! ああもう、連中よりも兄さんに腹立ってきた!」

怒鳴られたレオはしばし呆然としていたものの、やがて笑い出した。

「そ、そうか……」

「な、何で笑うんだよ……!」

「いや……何でもない……」


レオが笑うのを見て、レッドは自分の感情なんてどうでもよくなった。


「レッド……ありがとな」

「え? 俺何かやったっけ?」

「俺はな……、ここに帰る勇気がなかったんだ」

「え……?」

兄の告白に、レッドは呆けた顔をしてしまう。

「この村で俺は崇められていた。そして皆の期待に応えなければいけなかった。だというのに、俺はオーレどころか村ひとつ救えなかった。……失望され、憎み、恨まれるのが当然だろう?」

そう自嘲するレオは、普段の自信満々な姿からは想像できない程弱々しく見えた。

「だからレッド、お前がここに来たいと言わなかったら、俺はずっと逃げ続けていた」

「……兄さんでも、逃げ出したいことがあるんだ」

「ああ、あるさ。……なあレッド、お前はここに来るの、怖くなかったのか?」

「……そりゃあ、ちょっと怖かったよ。……でもさ、それ以上に何も知らないまま放っておくのが、嫌だったんだ」

「……そうか」

すると、レオが微笑む。

「……でも、じゃあどうして兄さんは俺について来てくれたの?」

「そりゃあ……弟の手前で、嫌だなんて言ってられないだろ? 俺にも兄としての矜持があるんだ」
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