風吹きぬける大地W
□天使と悪魔
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初対面は、人間の街でだった。
悪魔は、人間を好む。
力を与えるという甘言で人間を騙し、魂を掠め取ったり、人間の血を啜るという蛮行を犯したり。
そういった悪魔たちを狩るのが、天使の役目。
天使は天界に、悪魔は魔界に、人間は人間界に上手いこと住み分けられている。悪魔が天界に来ることはないし、その逆もしかり。
だが、その狭間にある人間界はそうはいかない。
餌を求め悪魔が這い出ることが多々あるし、その悪魔を始末するため天使もまた舞い降りる。
ミレイもまた、悪魔を狩るため人間の街にやってきた天使だった。
天使といっても、純白の羽があるわけではない。羽があるのは高位の天使だけで、ミレイのような下っ端には過ぎたもの。だから見た目は人間と変わりない。
それでもミレイには、そんじょそこらの悪魔には負けないという自負があった。
だというのに、思わぬ邪魔が入った。
それは、その悪魔と契約した人間だった。
結果、ミレイは傷を負い悪魔を取り逃した。
何たる屈辱。
そして、意識を失ったミレイを発見し、介抱してくれた者もまた悪魔だった。
「まだ動かない方がいい。いくら治癒力が高いとはいえ、肺に届く傷を受けたんだ」
嘆息をし、その悪魔はミレイに水差しを渡す。
「……分かってるわよ、それくらい」
見た目は完璧に人間だが、ミレイには分かってしまった。
見惚れるような美人ではあるが、それは人間の興味を引くために作ったのだろう。もしくは、そのような人間の容姿を奪い取ったか。
「……本当に、強情な奴だ」
疑念の眼差しで見つめるミレイに、青年の姿をした悪魔はむしろ笑みを深める。
「言っておくが、お前を襲う気は毛頭ない。誰が怪我の手当てをしてやったと思っている」
「なっ……!?」
分かりやすく、顔を赤くするミレイ。
「さっさと傷を治せ。俺だって長らく天使を自宅に置きたくないんだ」
「わ、私だって悪魔の家に長くいたくないわよ!」
「なら、大人しくしているんだな」
悪魔はまた笑い、部屋を出て行った。
改めて、ミレイはこの部屋を改めて見回す。
生活感のない、無機質な部屋。
客室なのだろうか。
首を傾げながら、ミレイは彼が水差しと共に持ってきた薬草をしげしげと見つめる。
それは、ミレイにもよく馴染みのあるものだった。
「これ、私がよく使ってるやつ……」
さらには内服薬まで。
悪魔のくせに、どうやって手に入れたのだろうか。
それに、手当をする意味も分からない。
天使の命は悪魔にとって格別なご馳走のはず。
「……もしかして、飼い殺し、かなぁ」
不安になり、遮光カーテンを開ける。
「あ」
そこには普通の街並みがあった。
試しに窓の錠を回してみる。
すると簡単に窓が開いた。
罠が仕掛けられている様子もなし。
「……何なの、あの悪魔」
返って拍子抜けしてしまったミレイだった。