風吹きぬける大地W

□裏の顔
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その道を、その時間に通ったのは偶然だった。



「ニョロ、水鉄砲!」



聞き覚えのある声がして、自然とグリーンの足はその方角へと向かった。



そこにいたのは想像通り、レッドだ。


どうやらニョロと特訓をしているらしい。


思わずグリーンが息を呑んだのと、レッドがグリーンを見たのはほぼ同時だった。


「グリーンじゃないか!」

グリーンに気付いたレッドが、特訓を中断して駆け寄ってくる。


「どうしたんだ?」

「……朝一で試合が入っているからな。早めに行ってコンディションを確認するつもりだ」

「朝一って……あれ?」

慌ててレッドは時計で時間を確認した。

「ゲ、もうこんな時間……」

どうやら時間を忘れていたらしい。

「……お前は」

しかし、グリーンはレッドが特訓した跡を見て茫然としていた。



標的に見立てた岩に、穴が開いている。


そして岩の背後あったであろう木が、へし折れていた。



果たしてただの水鉄砲で、そんな威力が出せるのだろうか。



「……水鉄砲の水圧を高めた、のか?」

「あ、バレた?」

あっけらかんと、レッドは笑う。


水鉄砲の威力を変えず、ただ範囲を狭くしただけ。


ただそれだけの技術で、レッドのニョロの技は岩をも貫くレーザーと成り得る。



グリーンは、冷や汗が流れるのを感じた。



岩を砕くということは、岩ポケモンの体も貫けるということだ。


下手をしたら、その後方にいるトレーナーすら当てかねない。


当たるだけならまだいい。


もし、「万が一」が起こったら……。


「……大丈夫だよ、グリーン」

そんなグリーンの内心が分かってか、レッドがグリーンの肩を叩いた。

「ポケモンバトルでは使わないからさ」

「あ、ああ……」


グリーンが戸惑いながら口を開こうとして、噤む。


ポッポが1羽、レッドの元に飛んできたのだ。


それも手紙を持って。



情報技術が発達しているとはいえ、手紙をポケモンに持たせて文通するということは珍しくない。



「……サンキュ」

それを見て戸惑った顔をしたレッドだが、すぐに手紙を受け取ってポッポを空に放った。

「……何も渡さなくていいのか?」

「ああ、いいんだ」


ちらりとグリーンにその封筒が見えたが、差出人が書いてある様子はない。


「……へぇ」

だというのに、レッドは中身を見ずして不敵に笑う。


「……悪い、挑戦状みたいだ。よーしニョロ、帰るぞ! じゃあなグリーン、ジム戦負けるなよ!」

元気良く、レッドは手を上げて駆け出して行った。



賑やかなのは変わらない。



だが、特訓のときに見せていたあの真剣な表情。



笑っているイメージが強いせいか、無表情となるとレッドの顔立ちが全然違って見える。


そして、そのときの眼差しに知らずグリーンは戦慄していた。



岩を……標的を睨む眼差し。



それはポケモンバトルのときとは全然違った。

ポケモンバトルのときのレッドは、真剣でありながら楽しんでいて、こちらもワクワクさせるもの。



だがあのときのレッドには敵意しかなかった。



無関係なはずのグリーンが、竦んでしまうほどの。



そして最後に見せた、あの笑み。




レッドには似合わない表情……あれは嘲笑だ。



「ポケモンバトルでは、使わない……か……」



なら、何のために、いつ使うためにあんな特訓をしていたというのか。





あれでは、まるで対象を殺すための技を練習しているようにしか見えなかった。









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