風吹きぬける大地W
□彼の家族
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「へえ、レッドってお兄さんいるんだ」
ニヤニヤ笑いを浮かべてブルーがそう言うと、レッドは「しまった」という表情を浮かべた。
「え、そうなんですか!?」
「……初耳だな」
付き合いの長いイエローやグリーンも驚いている。
レッドの両親については本人の口から聞いてはいないものの、察しはついている。
だが兄弟について、レッドは一言も話していなかった。
そもそも、図鑑所有者の中で家庭環境で何もない方が珍しいというのはどうなのだろうか。
グリーンとイエローの両親は既に他界しているし、ブルーはつい最近まで両親と会えなかった。
そのため、自然と家族に関しての話題は避けるようになっていた。
「……聞かなかったことには、……出来ないよなぁ」
3人の顔色を見て、レッドは肩を落とす。
「何でそんなに隠すのよ」
そんなレッドに、ブルーは不満そうな顔をした。
レッドが隠し事をしていたのが気に食わないのか、それとも自分が知らなかったのが嫌なのか。
「あー……」
レッドは言いにくそうに天井を仰ぐ。
「実は、さ……俺の兄さん……以前、とあるマフィア集団壊滅させて、さ……。それから、マフィアの恨みを買ってるんだ」
言葉を選びながら、レッドは続けた。
「そのせいで命狙われてて……弟がいるって知られると、逆恨みした連中が俺を狙ってくるかもしれないからって……。だから俺には兄がいないことになってるんだ」
微笑みさえしながら言うレッドの内容に、グリーンたちは俄かには信じられなかった。
レッドにもその気持ちは分かる。
幼い頃このマサラタウンに流れ着いたとき、その治安の良さに驚いた。
故郷であるオーレ地方では子供でも拳銃を所持していたし、レッドも護身術を幼少期から叩き込まれていた。
いくらレッドが子供だったとはいえ、見知らぬ人間を近隣に住まわせ、あまつさえ世話を焼くというのも信じられない。
オーレ地方で頼りになるのは己の力のみ。
野生のポケモンもいないから、ポケモントレーナーというのはそれだけで羨望の的であり、また標的でもあった。
だというのに。
「命って……大袈裟ねぇ」
心なしかブルーの表情が引き攣っている。
氷の仮面の下にいたブルーでさえ、そのような環境にはいなかったのだ。
「あ、やっぱそう思うか?」
そう笑うレッドを見て、グリーンたちは肩の力を抜いた。
「じょ、冗談だったんですかレッドさん!」
イエローがそう怒鳴り、レッドは笑いながら頭を下げた。
「悪い悪い。でも色んな意味で無茶苦茶な兄さんだからさ〜、結構言い辛いんだよね」
「無茶苦茶……」
「レッドにそう評価されるって……」
「相当、ですね……」
この3人の中で、レッドの評価がどうなっているのか気になるところだった。
こうして話題は家族のことから離れていく。
だからレッドが内容を撤回しなかったことに、3人は気付かなかった。
「……お前の兄は、どんな人間なんだ?」
グリーンの質問に、レッドは考え込んだ。