風吹きぬける大地W

□とある日常の風景
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飛来するのは氷の礫。


ひとつひとつは大した大きさではない。


ただ量が尋常ではない。


選択肢はふたつ。

避けるか、受けるか。


レオは数瞬考え、後者を選択した。


「ファイアウォール」

小さく呟くと、レオの周囲に炎の幕が具現する。


熱量を持ったカーテンが、いとも簡単に氷の礫を溶かし、水蒸気と変化させる。


「ぅえ!?」

相手の驚く悲鳴が聞こえ、口元に笑みを刻む。

「残り15」

そんなカウントが聞こえて焦ったのか少し間が空く。


本来なら絶好の好機。


だがあえて、レオは攻めなかった。


「炎よ、災いを灰塵と化せ!」


そして聞こえる詠唱。


「エクスプロード!」



その名の通り、レオを中心として爆発が起こる。


「っ」

流石のレオも僅かに焦りを滲ませた。



しかし、冷静にカウントを続ける。



「ゼロ」



大規模な爆発で、レオの声は聞こえなかったはずだ。



だが、カウントダウンが終了したのは分かっているだろう。



爆発が止む。



とたん、レオは1歩前へ踏み出した。

「スプラッシュ」



水流が墜ちる。



「フレアトルネード!」

それを打ち消すかのように、炎の竜巻が。



しかし、相手はどうやら気付いていない。

レオがもうひとつ、別の術をしかけていたことに。





爆発。




エクスプロードとは比較にならないほど大きな爆発音が響いた。




「……生きてるか?」

それが収まってから、ようやくレオは口を開く。

「……何とか」


それに応えるのは、仰向けに倒れている……吹き飛ばされた少年。


レオの弟、レッドだ。



今回のルールは簡単。

レオは一定時間決して攻撃をしない。レッドがレオをダウンさせれば勝ち。一定時間過ぎてレオにダウンさせられたら負け。



結果はご覧の通り、レッドの負けだ。


「今の爆発の原因、分かるか?」

「うーん……」

レッドは起き上がり、腕を組む。


衝撃で吹き飛ばされたとはいえ、出来たのは擦り傷のみで問題はなさそうだ。


「なーんか……風系統があったような……」

「その通りだ。構成は?」

「えーっと……防御系統、だった……?」

その返答に、レオは満足気に頷く。

「その通りだ。ちなみに、爆発の原因は水蒸気爆発」

「うぇ」

回答を聞いて、思わず呻く。


つまり、レオは風の幕を作って簡易的な密閉空間を作り出したのだ。


その中で炎と水がぶつかり、水蒸気爆発が起こる。

結果はご覧のとおり、だ。


もちろんレッドは密閉空間の中にいたのだが、レオが予めバリアを張っていたため怪我はない。


「だが、上出来だ。炎と水の構成のせいで、風は読みにくかっただろうに……」

「……ホント?」

兄に褒められ、照れるレッド。

しかし、すぐに真顔になる。

「でも、それに対応できなかったし……兄さんみたく、まだ複数の術式を操れない」

「それは慣れもあるが……レッドなら、訓練次第でいけるさ」

「……本当?」

珍しく、気弱レッド。


どうしても、優秀すぎる兄と比べてしまうのだろう。


レオが今のレッドの年齢で出来たことを、レッドは出来ていないのだ。


そもそも、比べる対象が間違っているということにレッドは気付いていない。
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