風吹き抜ける大地X
□それはどういう意味でしょう
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「大体、サンタクロースというのはそもそも聖ニコラオスが語源とされ、娘を嫁に出せない貧しい家庭に煙突から金貨を投げ入れ、それがたまたま靴下に入ったからという……」
「ねえ、このやり取り以前も聞いた気がしたんだけど」
無駄なレオの薀蓄を、ミレイはあっさりと切って捨てた。
由来とか語源とか、そんなものこの楽しいイベントには無意味。むしろ邪魔。
「……そうだな」
レオも肩を竦める。
「つまり、レオはこんなにうかれる意味が分からないってことでしょ?」
「そういうことだ」
要約すれば、そういうこと。
そもそもレオは、クリスマス等の年中行事とは無縁の生活をしていた。だから、うかれる理由もない。
今日が稼ぎ時と赤い服の……要はサンタクロースの恰好をした男性が声を張り上げケーキを販売している。
隣りの店では2メートルはあろうかというモミの木のイミテーションが煌びやかに飾り付けられ、どこからかベルの音まで聞こえてくる。
そんな光景を見ても、レオは小首を傾げるだけ。
「……ちなみにレオにとって、クリスマスって何?」
「……別に、どうも? オーレ地方ではクリスマスだからって防犯意識が低下するわけじゃなかったし……ああ、酔っ払いが多くて盗みやすくなったとは思ってたが」
「……うん、やっぱレオだ」
「……念のために言っとくが、流石に新年祭はあったからな」
「……そうなんだ」
「まあ、かといって何かあったというわけではないんだが。……いや、俺はやらなければならなかったんだが、スナッチ団ではあまり出来なくて仕方なく省略してしまって……」
自分には無関係な年中行事はとことん無関心なくせに、自分に関わりがあることは熱心。
そんなレオに呆れ、しかし微笑ましくも思ってしまう。
「ちなみに、レオがやらなきゃいけなかったことって?」
「豊作祈願とか、先祖供養とか……そんなもんだ」
「……それを、スナッチ団でやるわけにはいかないね」
「当然だ。正装までしたら気が狂ったと思われるのがオチだろうし……第一、手に入らなかったからな」
「持ってたら、やるつもりだった?」
「ああ」
あっさりとレオは頷く。
「だがまあ無理だと分かり切ってたからな。仕方なくアジト抜け出して、こっそりと単独で、簡易ながらやってた」
「うん、それでもやるってあたりレオって頑固だよね」
「自覚はしてる」
「直す気はない、と」
「そういうことだ」
分かり切ったことだが、ミレイは溜め息をつきたくなった。
「……で、ミレイ」
「何?」
「俺が興味ないと分かり切っているというのに、わざわざ誘い出してどういうつもりだ?」
悪戯気に、レオは笑みを浮かべた。
とたん、ミレイの頬が寒さとは別の意味で赤く染まる。
「う……」
「……答えられないか?」
「……だ、だって」
ぼそぼそと、か細い声でミレイは喋った。
「レオと一緒に、行きたかったんだもん」
「……クッ」
その返答にレオは笑い、少し歩調を早めた。
「早く来い。……行くぞ」
「……うん!」
慌てて、ミレイはレオの隣に並ぶ。
「……でもさ、レオもわざわざ来てくれたってことは……まんざらでもないんでしょ?」
「お前が騒ぎ立てるのが目に見えてたからな」
「うん、間違いなく騒いでた」
悪びれなく言うミレイに、レオの方が溜め息をついた。
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