風吹き抜ける大地X

□サヨナラ自由
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「……何だ、これは」

レオは、自分の言葉が震えてないか確証がなかった。


たった3日。

どうしても必要となってしまった物資の補給のためエクロ峡谷のアジトを出てパイラに行っていたその数日の間に、それは現れた。


2メートルはあろうかという巨大な機械だ。中にはどうやらボールが大量に収納できるらしいが、用途は不明。


「……これは、人のポケモンを盗む機械だ」

背後に立つヘルコンザが鷹揚に頷く。

「……盗みなら、今まで充分やってるだろ。こんなの持ち運んでたら機動性に劣る」

「ああ、そうだな」

その程度のこと、ヘルコンザが分からないわけではない。伊達にオーレで一大勢力を誇る盗賊団の頭領をしているわけではないのだ。

「今まで、ポケモンを盗むときにはどうしても所有者のボールを壊すか、ボールごと奪う必要があった」

「それが?」

そんなこと、今更言われるまでもない。今まで散々繰り返してきた作業だ。

「だが、この機械にボールをセットすれば……ボールをどうにかするという作業を抜きにしてボールから出ているポケモンを盗める」

「なっ……」


それが事実だとすれば。

必要以上にトレーナーに近づかなくて済む。手間を省けば逃走時間も稼げるし、その分効率も上がり収入も増える。


「ちなみに、効力は実証済みだ。バクサのハッサムで試した」

「ふぅん……。で、これはどっから手に入れた?」


このスナッチ団に、それだけの機材を作る科学力を持つ面子がいないのはよく知っている。

そもそもオーレ地方できちんとした学をつけようというのが間違っているのだ。読み書きだって出来ない成人もざらにいる。

ヘルコンザが簡単な、他地方では幼稚園もしくはエレメンタリースクールレベルの読み書きが出来るよう特訓させていなければ、もっと悲惨だっただろう。


「これはな、ある取引先から融資してもらった」

「はぁ?」

「どうやら、このマシンの性能をテストしたいらしい。代わりにデータと、盗んだポケモンの一部を渡すことになったが……」

「へぇ……」

確かに、ポケモンを堂々と盗める機械なんて表社会で使用出来るわけがない。
だから、スナッチ団のような日陰者に流通させたのだろう。


……が。


「……気に食わないな」


予感、とも言えないもの。小骨が喉に刺さったようなもどかしさ。


「大人の事情ってやつだ。諦めな」

「……まあ、あんたがそう言うなら従うさ」

後頭部を掻き、レオはその機械に背を向けた。



そのマシンが、チームの名前を取ってスナッチマシンと呼ばれるようになる2週間前のことである。









ポケモンを出しているだけで盗まれてしまうというそのマシンは、オーレ地方全土を震撼させた。

 “スナッチマシン”

いつからかそう呼ばれるようになった機械の影に隠れるように、小型スナッチマシンが開発された。


差し出されたそれを見て、困惑を隠せない。

「どうして、俺に?」

「オメエはすばしっこい上に、引き際を弁えてる。これで、隙を見せた奴を奪っていけ」

「……つまり、大型は囮ってことか」

「そういうことだ」

弧月のような笑みを、レオは浮かべた。



元来、才能があったのだろう。

ポケモンゲット……スナッチの腕は、団内随一。狙った獲物は逃がさない。



そうして、スナッチ団はますます怖れられるようになった。






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