満月の夜に
□もしも世界が……2
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何でこうもこの2人は仲が悪いんだろう。
グルーはトニーの隣でこっそり頭を抱えた。
原因はトニーと、新入りのギルバである。
今日もトニーは奥まった席でストロベリーサンデーを食べていた。
対してギルバはトニーの対極に陣取るように、ちびちびと水を飲んでいる。
2人は会話どころか視線すら合わそうとしない。
交流らしい交流といえば、初っ端のあの乱闘くらいなのではないだろうか。
だというのにギルバはいつの間にかトニーが持って行ったはずの刀を取り返している。あのペンダントもだろう。
いつの間に返却したのか、あのトニーが大人しく返したのかなどの疑問はひとまず置き、グルーはエンツォを見た。
「……エンツォ、流石にこれは無理じゃないか?」
グルーがそうぼやくのも無理はない。
「いいや、そうはいってられっか!」
どうやらたんまり仲介料を貰っているらしい。
今回エンツォが持ってきた依頼。
それは便利屋のツートップへのものだった。
「なあ、ギルバも頼むぜ!」
次にエンツォはギルバの元へ走る。
それを見て、グルーは深々と息を吐いた。
便利屋としての腕も優秀、トニーと違って仕事の選り好みをしない。
そうなれば自然と仕事は集まってくる。
それに腹立たしいものもあるが、トニーは何も言わない。
ギルバがどういうスタイルを貫こうがトニーにはそれほど重要ではないし、それで仕事を干されても自らのポリシーを曲げるつもりはない。
人を決して殺さないトニーと、必要ならば人殺しを厭わないギルバ。
仕事でぶつかるのは必至。
それを知ってなのか2人が組むことはなかったし、仲介屋も2人を組ませるようなものは自然と避けてきた。
だというのに今回の依頼人は金に物を言わせて、便利屋のトップを雇いたいと言ってきたのだ。
便利屋のトップ。
それは間違いなくトニーかギルバのどちらかなのだが、どちらが上なのか判断がつかない。
「断る。ヤツは邪魔だ。俺1人でいい」
「そう言うなってよ〜。1人100だぜ、100!」
普段は仕事を断らないくせに、トニーが絡むと断る。
2人揃って『気に入らない』と言うのだ。
「頼むからよ〜! な、トニー!」
「イ・ヤ・ダ! ギルバに頼め」
「そんな子供みたいなこと言うなって」
「俺は気に入らねー仕事は受けねー」
エンツォが必死にグルーに目配せする。エンツォもいきなりこの2人を組ませるのは危ないと判断しているのかもしれない。
つまり、この依頼はトニー、ギルバ、そしてグルーという面子で行くことになる。
「こんな美味しい仕事そうそうねーぞ! 物取ってくるだけで100だっつーのに……」
グルーとしても、おこぼれに預かれるのならその方がいい……のだが。
「……なあトニー。どうしてギルバと組みたくないんだ?」
「……そ、そりゃあ」
とたん、トニーはそっぽを向いた。
言えないことがあるのは分かりやすいが、仕草が子供っぽい。
「あいつが簡単に人殺すのが納得いかないんだよ」
「それだけか? ……ギルバはどうだ?」
「そいつの甘っちょろい理論を振りかざすからだ」
「何だと?」
「事実だろうが」
結局睨み合いに発展してしまった。
だが、それ以上のことにはならない。
このドビーの穴蔵で争うと、また飲み比べになるからだ。
別にトニーはそれでもいいのだが、それでギルバがまた潰れ、あのアミュレットや刀を質に入れられるのは困る。
「……お前らも便利屋なら、気に入らない相手とでも我慢して組めってんだ」
「ぐっ……」
「チッ」
舌打ちが2つ。
勝者、グルー。
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