満月の夜に

□もしも世界が……2
1ページ/3ページ

何でこうもこの2人は仲が悪いんだろう。

グルーはトニーの隣でこっそり頭を抱えた。


原因はトニーと、新入りのギルバである。


今日もトニーは奥まった席でストロベリーサンデーを食べていた。

対してギルバはトニーの対極に陣取るように、ちびちびと水を飲んでいる。


2人は会話どころか視線すら合わそうとしない。

交流らしい交流といえば、初っ端のあの乱闘くらいなのではないだろうか。

だというのにギルバはいつの間にかトニーが持って行ったはずの刀を取り返している。あのペンダントもだろう。

いつの間に返却したのか、あのトニーが大人しく返したのかなどの疑問はひとまず置き、グルーはエンツォを見た。


「……エンツォ、流石にこれは無理じゃないか?」

グルーがそうぼやくのも無理はない。

「いいや、そうはいってられっか!」

どうやらたんまり仲介料を貰っているらしい。


今回エンツォが持ってきた依頼。


それは便利屋のツートップへのものだった。


「なあ、ギルバも頼むぜ!」

次にエンツォはギルバの元へ走る。

それを見て、グルーは深々と息を吐いた。


便利屋としての腕も優秀、トニーと違って仕事の選り好みをしない。

そうなれば自然と仕事は集まってくる。


それに腹立たしいものもあるが、トニーは何も言わない。


ギルバがどういうスタイルを貫こうがトニーにはそれほど重要ではないし、それで仕事を干されても自らのポリシーを曲げるつもりはない。


人を決して殺さないトニーと、必要ならば人殺しを厭わないギルバ。


仕事でぶつかるのは必至。


それを知ってなのか2人が組むことはなかったし、仲介屋も2人を組ませるようなものは自然と避けてきた。


だというのに今回の依頼人は金に物を言わせて、便利屋のトップを雇いたいと言ってきたのだ。


便利屋のトップ。

それは間違いなくトニーかギルバのどちらかなのだが、どちらが上なのか判断がつかない。


「断る。ヤツは邪魔だ。俺1人でいい」

「そう言うなってよ〜。1人100だぜ、100!」


普段は仕事を断らないくせに、トニーが絡むと断る。

2人揃って『気に入らない』と言うのだ。


「頼むからよ〜! な、トニー!」

「イ・ヤ・ダ! ギルバに頼め」

「そんな子供みたいなこと言うなって」

「俺は気に入らねー仕事は受けねー」

エンツォが必死にグルーに目配せする。エンツォもいきなりこの2人を組ませるのは危ないと判断しているのかもしれない。


つまり、この依頼はトニー、ギルバ、そしてグルーという面子で行くことになる。


「こんな美味しい仕事そうそうねーぞ! 物取ってくるだけで100だっつーのに……」


グルーとしても、おこぼれに預かれるのならその方がいい……のだが。


「……なあトニー。どうしてギルバと組みたくないんだ?」

「……そ、そりゃあ」

とたん、トニーはそっぽを向いた。


言えないことがあるのは分かりやすいが、仕草が子供っぽい。


「あいつが簡単に人殺すのが納得いかないんだよ」

「それだけか? ……ギルバはどうだ?」

「そいつの甘っちょろい理論を振りかざすからだ」

「何だと?」

「事実だろうが」

結局睨み合いに発展してしまった。


だが、それ以上のことにはならない。


このドビーの穴蔵で争うと、また飲み比べになるからだ。

別にトニーはそれでもいいのだが、それでギルバがまた潰れ、あのアミュレットや刀を質に入れられるのは困る。


「……お前らも便利屋なら、気に入らない相手とでも我慢して組めってんだ」

「ぐっ……」

「チッ」

舌打ちが2つ。


勝者、グルー。


.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ