満月の夜に

□もしも世界が……
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その男の噂は絶えない。

曰く、短機関銃を持った12人を剣1本で相手し、無傷で生還した。

曰く、弾丸が鼻先1インチを通っても動じない。


何にせよ、それらの噂は男の並はずれた胆力と、実力を裏付けるものでしかない。


しかしながら、便利屋として働いているその男は、「便利屋」などと謳っている割には仕事を選り好みする。


まず、人を殺さない。

これは常日頃から公言していることで、他の便利屋仲間からも「甘ちゃん」などと評価を受けている。
だが男本人はそれを鼻で笑い、その信念のせいで後にお礼参りを受けることになろうとも気にしていない。

襲撃を無傷で乗り切る自信があるからだ。事実、それに代表されるデンバーズなど、99回も返り討ちにされている。


さらに自分がつまらないと判断した依頼には札束をいくら積まれたって見向きもしないのに、胡散臭そうな……具体的には悪魔の仕業だ、とか噂されるような事件にはタダのような値段で引き受ける。


そのせいで、昔気質の荒事師などからは猛反発を受けた。しかしその反感もトニーによってことごとく沈められた。壊滅してしまったマフィアもあるくらいだ。


トニーがこの街に現れたおかげで、それまで組織の使いっ走りとして動飾るを得なかった便利屋としての立場も変わった。

押し付けられた仕事を引き受けるのではなく、自分で仕事を選べるようになったのだ。








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