仮想と現実V
□とある少年の苦悩
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死の恐怖ハセヲがアトリというPCと付き合っているという噂は前々から流れていた。
それについてハセヲは否定も肯定もしていない。
事実、ハセヲとアトリは恋人関係にあった。
ただし、「三崎亮」と「日下千草」という名前でであるが。
巷で話題の映画を鑑賞してから適当に都内の店を巡り、最後は馴染みの喫茶店で……というのが亮の立てた計画だった。
映画のセレクトも間違っていたとは思っていないし、ウィンドウショッピングもそれなりに楽しめた。
問題なのは最後の喫茶店だった。
ここのコーヒーがお気に入りで、是非とも千草にも味わってほしいと思っただけのこと。
なのだが……。
「……俺にプライベートな時間はないのか……」
思わず亮は頭を抱えてしまった。
「まーまー気にすんなって亮!」
隣の席に座る男が亮の首に腕を回してきた。
「コーヒー飲んで酔ってるのかオッサン」
その男の腕を捻り上げる。
「いででででで!」
「あの……亮さん……」
見知らぬ男が亮に絡んできて、千草は困惑していた。
この店に入り、一息ついたところで男女6人組が入ってきた。うち1人は車椅子。
その一団は亮と千種の隣の席に座り、何故か亮に絡んできているのだ。
普段は皆を引っ張る、頼りになるリーダー(千草談)である亮がこの人たちの前だととたんに子供っぽくなる。
「ヒューヒュー。亮さんだって。いいなー彼女持ち」
「17のくせにもう相手見つけたのか。随分と手が早いじゃないか。くれぐれも間違いは犯すなよ」
「……別に、亮なら大丈夫じゃないの?」
「甘いぞ。アイツが真面目に思えるか?」
「……ですが、亮は使い分けるタイプですし……本気で好きになるのなら、不誠実なことはしないと思います」
「……俺からはとりあえず、相手選びに失敗をするなとしか言えん」
「あーバツイチだもんね」
「……お前ら。勝手に俺の性格判断すんじゃねえ」
捻り上げるのは止めたものの、今だに男の腕を握る手には力が込められている。
「ちょ、マジギブギブ!」
悲鳴が上がり、当然ながら店内の注目を集める。
だが幸いというか客はまばらで、店員は特に気にした風がない。