仮想と現実
□独房 解放の予感
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「入院患者の中に、みどりっていう名前の女性はいらっしゃいませんか?」
病院の受け付けでその言葉を聞いたとき、亮は思わず足を止めた。
いつもの通り志乃の見舞いに来てその帰り。
受け付けで看護婦に嫌な顔をされている青年がアダマスのプレイヤーだという亮の勘は多分当たっているはずだ。
アダマスはやがて諦め、亮と同じようにアダマスを見ていた少女に少し躊躇ってから声をかけた。
「おや?三崎君?」
「あ……黒貝先生」
7年前に亮が退院するとき、リハビリにつきあってくれたのが研修時代の黒貝だった。
退院して以来会っていなかったが、志乃が入院したこの病院で偶然再会し、それ以来何かと気にかけてくれている。
「どうかしたのかい?もう帰ったものだと」
“みどり”と“碧”。何か関係があるのだろう。
もし“碧”が7年前の自分と同じようになっているのなら。
「……もしかして、意識不明の人って入院してるんですか?」
ふと亮は黒貝を仰いだ。
あまり深く聞くと患者のプライバシーに関わるので亮も突っ込めない。
「もちろん。ここは大きな病院だからね」
「その中に、原因不明の人は……」
「……いる」
目をつぶる黒貝。
「ありがとうございます」
亮は礼を述べ、アダマスを見た。
少女とアダマスはM2Dを装着するようだ。
もしかしたら碧と会うのかもしれない。
碧は自分を探すことにしたのだろうか。
「(……あいつがいるなら大丈夫だな)」
亮は病院を辞し、家に帰ることにした。
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