仮想と現実

□独房 少しの気まぐれと親近感
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ハセヲは嘆息すると、PKしたばかりの重槍士の末路を見ることなく背を向ける。

こんな相手よりももっと楽しめるPCと戦いたい。


ついこの前会った“殴られ屋”……碧のことを自然と思い出した。


「また手合わせしてぇな」

かすり傷しか負わせられなかった相手。

自然とハセヲの口元に笑みが浮かぶ。

それからその笑みを消した。

「……何してんだ?」

視線の先には誰もいない。

少なくともディスプレイには誰も映っていない。


だが、気配を感じる。


「殴られ屋は廃業か?」

『私が……見えるの?』


そこに間違いなく当の碧がいる。


「見えねぇ。けど感じる。あんた……放浪AIだったのか。どーりで強いはずだ」

『放浪AI……?』

碧にとっては聞きなれない言葉。

だがハセヲには馴染みのある言葉。

「はっ、自分が何者かも分からないってか?」

『放浪AIって何?』

「簡単に言えばNPC。リアルがねぇ。何だ、自覚無しか」

淡々と事実を述べるハセヲ。

『私は……私はここにいるの?』

「知るか」

『私は……!私はここにいるの!?』

恐慌状態に陥りかけた碧を見て、ハセヲは怪訝な顔をする。


ハセヲがどう言ったって、そこにいるのかいないのか決めるのは碧自身。


『分からない……分からない!』

「おい!」

ハセヲが止める間もなく碧はその場から姿を消した。





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