仮想と現実

□幻の喪失
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「ん〜、困ったな〜」

ハセヲは顎に指を当てる。

「一応ボクちんもハセヲなんだけどな〜」

「……行くわよ。八咫様に報告に行かないと……」

パイは溜め息をつき、聖堂から出て行こうとした。

「……オネーサン達の知ってる“ハセヲ”ならもーいないよ」

「どういう事なの?」

足を止めて振り向いたパイを見て、ハセヲはますます笑みを深める。

「消えちゃった♪」

「ふざけるなよ……。そろそろオニーサン忍耐の限界なんだけどな……」

クーンも相当怒っている。

「え〜、そのまんまの意味だみょん。The Worldからも、リアルからも、消えちゃった♪」

何でもないことかのように言う“ハセヲ”。

それからふと真面目な顔になる。

今までとのギャップにパイ達は息を呑んだ。

「“ハセヲ”はね、今回の事件で7年前The Worldで何が起こったのか知っちゃった……ううん、思い出しちゃったんだ。

三崎 亮は7年前の未帰還者の1人。でも他の未帰還者と違ったのは、スケィスに癒着されたってこと。7年間ずっと」

「……え?」

「どんな事を言い出すかと思えば……」

瞠目するアトリ。

パイは眼鏡を押し上げ、溜め息をついた。

7年も未帰還者となっているのなら、亮が“ハセヲ”としてログインできるわけがない。

「リョーはね、昔から優秀だった。だから親も安心してリョーを家に置いて働きに行った。リョーが寂しがっているのを察していても、仕事を取ったんだ。

でも、リョーは寂しさに耐えられなくなったんだ。でもその事を言ったら親を困らせると分かってるから言えなかった。

だからリョーは話し相手を自分の心の中に作った」

そう言う“ハセヲ”はどこか悲しげで、

「でもThe Worldの存在を知って、リョーはその世界にのめりこんだ。もう自分の中の話し相手は必要ないくらいに。そして、次第に忘れちゃったんだ。

んで、興味本位で近づいたモルガナに逆らってスケィスに癒着された。

それから三崎 亮の体を使っていたのは忘れられちゃってたもう1つの人格の方。それはリョーが解放されてからも一緒。

けど、リョーは思い出しちゃったんだ。自分のことを、ボクのことを。

だから、消えちゃったんだ。ボクを表に出すために」



誰もが沈黙する。




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