仮想と現実V

□あり得ないはずの出会い
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『アゲトビレッジの祠に来て』

そんな声がして、レオは思わずバイクを停止させた。


ここが車通りの多い道なら大迷惑な行為だったろうが、幸いなことに後続車両は見えない。


「レオ、どうしたの?」

サイドカーに乗るミレイが首を傾げる。

「……目的地を、アゲトビレッジに変更する」

「へ?」

『は?』

『え?』

突然のことにミレイだけでなくディアとニュイまで戸惑ってしまう。

「……俺だって知らん」

レオ当人も困惑しているようだ。

「ただ、セレビィに呼ばれた」

呼ばれたからには無視できない。


仕方なく、レオはバイクの進路を変更した。

















数日かけてアゲトビレッジに戻ったレオは、ミレイとディア、ニュイの2匹をローガンの元に置き祠にやって来た。


そして、そこにいたのは奇妙な装飾を身に付け、顔や肩に文様を入れている少年。

髪は白いし瞳の色も赤くアルビノかと疑ってしまう。

そして手には手をガードするには禍々しい双銃が握られている。


「……気配を消さなかったことで、敵対するつもりはないと判断してもらいたいのだが」

だが、判断としては正しい。

見知らぬ人間を簡単に信用するのは余程のお人よしか、平和な世界で育ったかのどちらかだ。

「……お前は?」

「そこにいる奴に、呼び出された」

その少年を見て、レオはどうしてセレビィに呼び出されたのか理解した。

「加えて言うと、そこの祠はそいつを祀っているやつでな」

そう、レオは少年の後ろにある祠を示す。

「そいつは人好きだが、滅多に人前に姿を現さないくせに悪戯好き。お前もそれに巻き込まれたんだろ」

『ヒドイナ、レオ』

セレビィがレオの周囲を飛ぶ。

『この人は、何かツヨイ衝撃で次元の狭間に飛ばされたんダヨ。それを助けたンダ』

だがセレビィの言葉を無視し、レオは少年を見る。

「……何だよ」

「せめて、拳銃を抜いたのなら照準くらい合わせておけ」


レオは自分の拳銃を抜き、照準を少年の額に合わせる。


「っ!」

いつ、レオが拳銃を抜いたのか見えなかったのだろう。

黒光りする無骨な武器が狙いを定めている。

「……安心しろ、事情も聞かないで殺すような下手を打つつもりはない」

「……んなもん見せられてはいそうですかなんて言えると思うか?」

少年が見せた表情に、レオは唇の端を持ち上げる。


少年は笑みを見せたのだ。


引き金を引かれたら死ぬ、という状況にも関わらず。


避けられる、防げるという確信があったわけではないだろうに。


その根性の据わり具合が気に入った。


「そりゃそうだ」

だからレオはあっさりと拳銃をしまった。

それを見て、少年の双銃に篭る力も抜けかけ……すぐに握り直す。


目の前の相手が油断ならない人物だと分かっているのだ。


「それで、侵入者。どうしてここにいる?」

それにまたセレビィが文句を言うのを黙殺する。

「俺は……」

赤い瞳に逡巡の色が覗く。


それにレオは目を細め……思わず息を呑んだ。


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