仮想と現実V
□鬱憤
2ページ/3ページ
ふと昔のことに思いを馳せ、亮は自嘲する。
あの頃は本当にガキだった。
戦い方も知らないくせに、体の動くまま、我武者羅に戦っていたのだから。
それでも目立つ怪我をしなかったのは、相手が子供だからと油断してくれていたのと、正確に急所を狙ってすぐに叩きのめしていたから。
それと逃げ足。
ギャラリーが来る前に、警察が駆けつける前に逃げる。そのおかげで補導もされずに済んだ。
補導されたら、あの母親は卒倒するだろう。
ただ『The World:R2』が開始されてから、リアルファイトで戦うことはめっきり減った。
ただ、減っただけでやらなくなったわけではない。
「あーあ、ホント何やってんだろうね、オニーサンたち」
足に力を込めると、下で何かが呻くような声が聞こえた。
「こんなんじゃ、ストレス解消にならないじゃん」
このまま背骨を折ってやろうか、とも考える。
報復だって怖いし。
ただ、今日はこれでタイムオーバー。
帽子を目深に被り直し、最後に脇腹を蹴りつけてからこの場から逃走した。
「ハセヲ、なんだか機嫌よさそうだね」
@ホームにいると、ログインしてきたシラバスがそんなことを言った。
「そうか?」
「何かあったの?」
「何も……ないはずだけど」
「あー! もしかして、宿題がなくて嬉しいんじゃないか?」
ガスパーがそんなことを言いだす。
「なるほど。宿題って面倒だもんね」
「あのなぁ……」
確かに面倒だが、あのくらい簡単ならそんな時間を取らない。
別に家でなくても、学校の休み時間とかにやればいいのだし。
強いて言えば、久しぶりに繁華街に繰り出したことくらいだろうか。
やはりゲームでのPKと、リアルファイトは全然違う。
何より相手を殴り、踏みつけるあの感触。とてもPCでは再現できないもの。
その感触を思い出し、ハセヲは笑みを漏らしそうになった。
「それで、何があったの?」
「ヒミツだ」
END