バテン

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「ひっどいなあ」



静かなバスルームに投げ捨てた言葉はぐわんぐわん響いてから消えてった。


目の前にある曇った鏡を手で拭けば、自分の身体が写る。

身体中には赤色…というより紫色に近いたくさんの痕が残ってる。これは全部あの人のせいだ。


好きでもないくせに、
好き勝手に痕を残して、わたしを自分のモノみたいに扱って。

愛されてるなんて一度も思ったことがない。そんな言葉を聞かせてくれたこともない。ましてや、わたしたちは付き合ってもいない。


これが鏡に写るたんびに胃がキリキリして吐き気がした。






















外に出れば、嫌なくらい真っ青ないい天気。わたしは曇が好きなのに。


話しかけてくるご近所さんに適当な愛想笑いを投げ掛けて、歩き出そうとすれば向こうにいる男2人組から聞こえてきてしまったあの人への悪口。






「あの片羽」

「あいつ消えねえかな」












胃がキリキリする。














ばちん! と


すごい音を立てて、わたしは悪口を言った男を叩いた。



「なっ、なにすんだ!」



叩いた男の人はそこにつっ立ってるだけで、隣にいたもう一人の男の人がわたしの胸ぐらをつかんできた。

そのままわたしにあーだこーだ言ってるけどどうでもいい。周りにいる人はひそひそ見てるだけ。さっき話しかけてきたご近所さんもだ。



鳴り止まない男の人の言葉をどうしようかと思っていたら突然男の人の後ろから手がのびてきて、片をグッと引っ張った。

いきなりのことでふらついた男の人はわたしを掴んでいた力をゆるめる。



「離してやってくれないか」



静かな声と青い髪に、わたしも男の人もビックリして何も言えない。

そこには、さっき悪口をいわれてた張本人の彼が。



彼の険しい顔を前に、男の人は聞こえないくらい小さく舌打ちをしてわたしを解放するともう一人の男の人を連れて逃げてった。

ああいう人は本人を前にすると何も言えないんだ。






彼はため息をこぼして、少しの間の沈黙をやぶった。



「なんでああなった?」



静かに優しい口調で問いかけながら、わたしの頭を撫でる彼の手が嫌で思い切り振り払った。



嫌嫌嫌嫌 全部嫌。

本当に嫌いなの。あなたもあの人もこの町の人みんな全部全部、みんな目を変えて、口を揃えて、あなたの事を、




「カラスの事が嫌いなのはわたしだけで充分なの!!」





だからもうやめて。



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