小説短編
□結局は消えていく
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2009/11/2発売49号ジャンプネタバレあり!
「ミーはずっとセンパイの隣に居ますよ」
ああ、これはいつ言ったセリフだっただろうか。確かにミーはセンパイに、この小さな約束を交わした事は覚えている。その時のセンパイはミーが見た笑顔の中で一番いい顔をしていた様な気がする。
決して裏切ろうと思ったワケではない。
初めてセンパイを見た時に、今まで心の内に隠していた事実や目的も全て忘れてしまっただけ。はじめから裏切るつもりならこんな関係にはならなかったし、ましてやココまでヴァリアーという組織にはまりこんでいくなんて思わなかったもんだから、正直自分でも困ってる。
「ミーはセンパイが好きなんですー」
センパイじゃなきゃ、ホントにダメだと思った。センパイの隣に自分が居て、センパイが笑ってくれればいいと本気で思った。
嘘じゃないんです、好きなんです。
裏切ろうなんて、ましてやセンパイを置いて行くなんて考えてませんでした。
信じて下さい、センパイが好きなんです。
センパイを裏切りたく、なかったんです。
どうしたら良かった?
今未来に来ている沢田綱吉達が過去を変えたら、もしかしたら前任は死んでなくてミーはヴァリアーに来なかったかもしれない。けど同時に、今のままの未来が進んだってミーは結局ベルセンパイとは居れない事になる。…悲し過ぎる、どっちにしてもミーはセンパイと居れないんだ。
知っていれば、結末を知っていればこんな想いはしなかった。
「所詮、お前もマーモンと何ら変わりねーんだろ」
「違います、ミーは本気でセンパイから離れたりっ…!」
「嘘だ、マーモンもそういって帰って来なかった。…お前も、そうなんだろ?」
「……ちがっ…!」
「お前も、同類だろ」
突き付けられた言葉が痛かった。センパイからの拒絶の言葉がミーの心に音をたてて深く深く突き刺さる感じがした。拭っても拭っても、涙は頬を伝ってムダに地面を濡らした。ミーはそう思わなくても、少なくともセンパイの心は裏切られたと感じたんだろう。前任の時と、同じように。
ミーの師匠が、六道骸だった事はヴァリアーの誰にも教えなかった。それを言うのは師匠にダメだと言われたし、言ったトコロで待っているのはそれなりの軽蔑と警戒だけだとわかっていたから。
でもセンパイだけには、教えてもいいかと何度も思った。
ミーを受け止めてくれると、思ってた。
「…やっぱ師弟だとそうなんだな」
「…ベル、センパイ」
「センパイ、なんてもう呼ばなくていーよ。…その帽子も、捨てていい」
「……センパイ、」
「すっかり騙されてたぜ、フラン。…最初からオレら潰すのが目的だったんだろ?」
「違いますー…って言ったって、センパイは信じてくれないでしょ?」
「ああ勿論、裏切り者の言う事なんて信じないぜ?」
そう言ったセンパイの顔は、いつもの笑顔と変わりはなかった。ナイフに手を添えて、いつもみたいにミーに向かった投げてくる。…そんな風景が今は酷く胸に痛い。
ねぇ、センパイ。
ミーがもし、このままセンパイを連れて何処か遠くに逃げようとしたら…センパイは着いてきてくれますか?
まだミーの「愛してる」は、センパイの心に届きますか?
ミーと一緒に居て、幸せでしたか?
「裏切りたくなかったんです、信じて下さい」
「…っ、何で今更…そんな事っ…」
「センパイと一緒に居たかった、…センパイをずっと愛したかった」
「……っ、」
「信じて、センパイ。ミーはセンパイが好きだって事」
ああ、ダメだ。
何もかもが、滲む。センパイと過ごした日々も、時間も、何もかもがぼんやりとなかったみたいに消えていく。
イヤだ、消えないで。ミーがセンパイの隣に居た証を、消さないで。
消えたくないんです、センパイの心の中から。
センパイを愛したのはミーだって、忘れないで欲しいんです。
ミーの存在を、なかった事にしないで。
…なんて、センパイの心の中から勝手に消えようとしたのはミーなのに。
「……フラン、」
「…………」
「愛してるって、言って」
そうして結局は消えていく
(アンタの頬を流れる涙が)
(妙にミーを責め立てている様な気がした)
(愛してます、センパイ)
(裏切って、ごめんなさい)
(…ごめんなさい、)