小説短編
□Punky Lovers
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ある日、学校から帰ってくると郵便受けに知らない真っ白な手紙が入っていた。真っ白な中に赤く小さく入ったロゴは、今ニュースなどで話題になっている超大企業のロゴ。関係など自分達にはあるはずがないのだけど何か関係があるのかどうしても気になったフランは、手にとった手紙を裏返してみた。するとそこにはバランスのいい、でもドコか華奢な字でしっかりと自分のよく知っている人物の名前が書かれていた。
「ベルセンパイ、」
そう呟いたらソファの上で体を伸ばしてテレビを見ていたセンパイは、首から上をミーの方に向けて軽い欠伸をした。出逢ってから幾分か伸びた金髪はふわふわと宙を踊り、下からちらちらと僅かに覗く翠色の瞳はとても綺麗だが、もとは凄く真っ赤な色をした瞳だった。今はカラコンで隠しているが、昔に一回だけ見たときにはもの凄く蹴られたり殴られたりした。それほどに嫌なのかと聞いたら、「違う、だけど…好きでもない」と何とも曖昧な答えを出して納得がいかなかったのを覚えている。
「何、お前帰ってきてたのかよ。今日ははえーじゃん?」
「今日は補習も研修も何もなかったんでー。…センパイこそ早いじゃないですかー」
「しし、だって今日行ってねーし」
テーブルの上に広げられているスナック菓子、炭酸飲料水、その他もろもろのお菓子の山に手を伸ばして口にしながら、ベルは楽しそうに笑った。フランも部屋の有り様に特に気にする事もなく空いたスペースへと腰をおろした。その際、手に持ったままだった手紙の存在を思いだしそれをベルへと渡した。
「…何、これ」
「郵便受けに入ってたんですー、どうもベルセンパイ宛のらしいんでー」
「オレに?…ったく、誰だよ…」
そう言ってビリビリと手紙を破るベルの様子を横目で見ながら、フランはテーブルのお菓子に手を伸ばした。生憎、フランはベルと違ってスナック菓子や炭酸飲料水は好きな方ではないため、端に寄せてあったクッキーを口に放り込んだ。すると少しの間無言で手紙に目を通していたベルは深いため息をついた。
「…?何て書いてあったんですかー?」
「…別に、大した事じゃねーよ」
「…ホントにー?」
「うっせ、人の事情に首突っ込むな」
手紙を荒っぽく上着のポケットに突っ込むと、ベルはソファから立ち上がり玄関へと歩き出した。その様子を目線だけで追ったフランは小さく「いってらっしゃーい」とだけ言った。もちろん、返事なんて帰ってくるハズもなくベルは黙って出ていった。と同時に、入れ違いだったのか銀色の長い髪を後ろで1つに束ね、手には書類を抱えたもう1人の同僚が帰ってきたらしく部屋の有り様に「ゔぉい…」と小さく声を洩らした。
「何だぁ、この部屋の有り様はぁ…」
「ベルセンパイのせいでーす、…ミーは悪くない」
テーブルの上にはお菓子の山、脱ぎ散らかした衣類、広がったままの雑誌、片付けられていないテレビゲーム。部屋に散らかったほとんどのモノがベルが出したまま片付けなかったモノ。あの我が儘ヤローが片付けなんてするワケがないのはわかっていたけど…とフランは思いながら銀髪の同僚を見た。
「ったく…あンのクソガキィ。次から次に面倒事増やすんじゃねぇ!」
「スクアーロさーん、大声が耳に痛いでーす」
「っち…、書類取りに帰っただけなんだが、掃除もしねぇといけねぇかぁ」
「まだお仕事片付かないんですかー?」
「ん、あぁ。契約相手の若社長が何かと決断を遅らせてる所為でなぁ…オレとボスのトコまで仕事が山積みだぁ」
スクアーロがしている仕事とは、世間でいう派遣会社に似たような仕事である。社長でもあるXANXUSを中心とした独立した雰囲気と卓越した能力で企業の御曹司や国の偉人などの護衛、依頼人と代わっての国政への参加などその内容は一般の常識を越えたモノが多い。
そんなスクアーロやXANXUSがまだ社会人として駆け出しの頃、家出をして放浪中だったフランは拾われたのだ。拾われたというより、2人に惹かれてフランがついてきた…という言い方も間違っていない。だが、フランが一緒に暮らし始めた時から既にベルは居て、ベルの過去というのは未だにフランは知らないのだ。
「(でも…あの手紙とベルセンパイの関係も知りたいですし…)」
仕方なし、と。フランは目の前でグチグチと文句を言いながらも部屋の片付けを始めるスクアーロに聞いてみた。だが、スクアーロは質問を聞くと困惑した様に言葉を濁らせて教えてくれないのだ。フランはスクアーロが帰ってくる少し前の話をし、スクアーロの顔色を伺った。すると、「大企業のロゴが入った手紙」と聞いた辺りからスクアーロは驚いた顔をしていた。
「…それは、ホントに大企業のロゴだったのかぁ?」
「はいー、ミーがちゃんと見たんだし間違いはないと思いますー」
「…そう、かぁ…」
「やっぱり、センパイと何か関係があったりするんですかー?」
フランが聞くと、スクアーロはとうとう話す気になったのか、ため息の後にしぶしぶと口を開いた。
「…あぁ、本人は余り口にしたがらねぇし、ボスにも黙ってろって言われてたんだがなぁ…」
「…………」
「アイツ…ベルフェゴールは大企業の社長の、れっきとした血の繋がった息子だぁ」
スクアーロがそう口にした時、大きな音と共に部屋の扉が開かれ荒々しい足取りで入ってきたのは、先程出ていったハズの金髪の同僚の姿。態度から見てとれる様に、何か不機嫌な様子でソファに腰掛けると掴んでいた炭酸飲料水(何本飲めば気がすむんだ)を一気に飲み干して大きく息をはいた。
その様子を終始みていたスクアーロはまた厄介事が増えたとばかりにベルと同様に大きく息をはき、そしてベルの機嫌を伺う事もなく大体予想していた事を口にした。
「…結局、例の社交パーティーとやらにてめぇも出るのかぁ?」
「…何で知ってんだよ、」
「ここ最近、ウチの会社にもお前の親父の会社からの警備やボディーガードにと依頼が来てたんだ。その位バカなオレでも予想出来るぜぇ」
満足気なスクアーロとは対照的に小さく舌打ちをしたベルはダルそうにフランを見た。今まで黙って話を聞いていたフランは、ベルの視線をやや疑問に思いながら手元にあったクッキーを口に放り込んだ。
「…おい、バカエル」
「誰がバカエルですか、潰しますよクソヤロー」
「ししっ、お前さぁ…オレと一緒にパーティーに参加する気ねぇ?」
「…………は?」
意外なベルの言葉に、フランとスクアーロでさえ驚いた顔をした。そうとも構わず、言った本人は気にする素振りも見せずに言葉を続けた。
「だーからー、お前も一緒にパーティー行くのはどうかって聞いてんだよ」
「…いやいや、そもそもミーが行く理由がありませんしー。大体、センパイがイヤなら行かないって手もあるんじゃ…」
「…ジルが、会いたいんだって」
"ジル"とセンパイの口から名前が出た時、珍しくスクアーロさんが「あの人見知り坊っちゃんがかぁ…」と小さく呟いた。どうやら知っている人物らしいが、ミーは知らないし、第一その人とミーに何の繋がりがあるかさえわかりやしない。でも、確かに言えるのはミーの心の内に会ってみたいという気持ちもない事はないという事。
「だからオレはパーティーに行くけど、1人じゃつまらねーからお前も来い」
Punky Lovers1
微妙な終わり方をしてしまったフラジル連載ですが、まぁこのプチ連載のテーマは「身分違いの恋」です。…一応、フランとジルの過去や立場的なモノを背景に展開していく話…のハズ。←