小説短編

□君の頬にキスを!
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自分の胸の中をグルグルと渦巻いているなんとも言えない感覚はここ数日間続き、終いには広がり消えてしまった。

センパイ。そう呟いた言葉はそのまま枕の中に吸い込まれていく。なんだなんだ、ミーはいつからこんなに女々しくなったんだ。もう随分と冷たくなった隣のシーツを握りながら、センパイ。とまた呟く。

ぐるぐるぐる。

数日前に消えたと思っていたなんとも言えない感覚がまた、ミーの中を渦巻いて酷く不快感に体を沈ませる。

「長期任務?」

「そ、大体2ヶ月くらい帰ってこれないっぽい」

「へー…、センパイが帰ってこないなら暫くは静かな日々が続きますねー」

「てめっ……オレが居なくて泣いたりすんじゃねーの?」

「まっさかー…、逆にセンパイが居なくて清々しますよー」

きっかけはセンパイが長期任務に行く際のミーとの些細な言い合いが原因で。
お互いに素直になれず、言い合う様な仲だとセンパイが一番よく知ってるクセにあのヤロウ、

「じゃ、オレが帰ってくるまでの2ヶ月間…電話すんの禁止!オレの幻覚作ってイチャコラすんのもダーメ」

笑 顔 で 言 い や が っ た よ 畜 生 !

最初こそ余裕の表情で笑いながらセンパイを見送ったミーも、早3日目で既に限界点を越えた。

電話に伸ばしかけた手を死ぬ気で縄で縛ったり、幻覚を無意識に作りそうだった頭を隊長に殴ってもらったり。
「さっさと降参しちまえ」と隊長が言うけど、わざわざあの堕王子に弱気を見せるのはミーのプライド的にムリだと意地を張ってみたり。


そんな中、1ヶ月が過ぎて半分死にかけのミーはまさにカエルの干物状態。(あ、自分で言って悲しくなってきた)

「うー…」

また、ぐるぐるぐる。

不快感に眉を寄せながらも、主の居ない部屋を占領して過ごしだしてからもう何日が経過しただろうか。冷たいシーツはだんだんミーの体温を吸って温かくなっていくのと同時に、ふんわりと鼻につくセンパイの匂い。

「……センパイ、早く…帰ってこいよー」

ああヤバい、なんか泣きそうだ。

これも全部センパイがあんな事言うから…って。そういう流れになったのはミーの所為でもあるんだけど。

「こうなったら…隊長と浮気してやるー」

呟いた瞬間に感じた違和感。閉めきってたハズの部屋に吹く風にミーが顔をあげようとした時に聞こえた声に、一気に泣きそうになった。

「誰と、誰が浮気するって?」

「セ、ンパイ……!」

閉めきっていたハズの窓はナイフで綺麗に割られ(音がしなかったのはこの所為)、後1ヶ月は見る事はないと思っていたセンパイが1ヶ月前とは変わらない笑いで座っていた。

「何ボーッとしてんの?」

「だ、だって…!センパイあと1ヶ月は帰って来ないハズじゃ…!」

「あーそれ。1ヶ月で全部終わらせてきた」

「…………え、」

「だーからー、1ヶ月で全部やって来たの」

確かに、今ミーの前でナイフをクルクル回しながら笑うベルセンパイは誰かが作った幻覚とかでもなくて本物で。…ヤバい、涙腺が。咄嗟に顔を俯かせて隠しても、それは伸びてきたベルセンパイの手で無理矢理上を向かされた。

「…泣いてる?」

「泣いてなんか、ないですよー…」

「嘘、涙流れてんだけど」

「〜!これはっ…センパイの所為で…」

「うしし、わかってる。…ごめん」

「〜っ!」

センパイの、バカ。そういいかけたミーの言葉は
いきなりミーによりかかってきたセンパイによって喉辺りで引っ掛かって出なかった。動かなくなったセンパイを、ちらりと視線をずらして見てみると前髪から覗く瞳は閉じられていて、呼吸する度に上下する体から、寝てる事が確認出来る。
当たり前だ。2ヶ月もかかる任務をたった1ヶ月で仕上げてきたんだ、疲れるのめ無理はない。

「ムリ、しないで下さいよー。センパイに何かあったら、ミーが心配しますんで…」

センパイをベッドにそっと横にさせ、ミーもその隣に横になる。ここ1ヶ月、1人で寝る事に違和感があったせいでなかなか寝るに寝れなかったミーにも睡魔はすぐに訪れてきた。

「おやすみなさーい、センパイ。…愛してます」



君の額にキスを!

(…ふぁぁ、)
(はよ、フラン)
(あ、おはよーございま…って。何してるんスかーセンパイ)
(何って…いちいち聞く必要なくね?)
(いやいや、朝から何ですかー)
(溜まってんだよ)


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