小説短編

□報われなくても、大好きなんです
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気紛れで、ホントに気紛れで外へ行こうと思った。

最近は任務があまりミーに回って来なくなって、だからといって別にする事なんて何もないから部屋に居るか、談話室で誰かと喋るくらいしかしていなかった。暇だから出たくなったんじゃなくてただ、廊下を歩いていた時にふと見た空がキレイだなーとか思ってたら衝動的に出たくなっただけ。

「……っさむ、」

部屋の窓から地面に向かって思いきり飛び降りる、降りながら感じる冷たい空気が肌にひしひしと伝わってきて足がついた頃には自然と体を震わせた。
念のためにコートを持ってきて良かった、とフランは持ってきたコートを羽織ると目的地もあるわけではなく、ただ歩いた。

別に星空を見たいと思ったわけではないし、アジトに居たくなくなったわけでもない。(外の寒さと比べればアジトの方がよほど良い)だったら、何故衝動的に外に出たくなったのか。それはフラン自身にも謎のまま。

ただ1つ言えるのは、歩きついた先には何か待っている様な…そんな気がしてならないのだ。

「(暗殺者の勘、ってヤツですかねー…)」

身に付けたくて身に付いた能力ではない、とため息をはく。辺りを見回せば色々考えていた間にアジトからかなり離れた所にまで足を運んでいたらしい。吐く息が白い、…寒い。

「………ん?」

ふいに立ち寄った林の中で、暗闇にも関わらず光を放つモノを見つけた。ゆっくりと気配を消して近づくと、それは月明かりに反射する銀色の…ティアラ。木の根元に寄りかかる形で座り込んでいる、どっかの堕王子にそっくりなヤツが居た。

気配を消していたために気付かれてはいないらしい、知っているとはいえ敵。敵は始末出来る時に始末しておいた方がいい、とセンパイに言われた事を思い出して妙にムカついた。

「おい、堕王子(兄)ー」

とりあえず声をかけてみる。でも、返事がない。普通なら声をかけられたら反応するモノだと思っていたんだが(仮にもマフィアだし)…念のために前にしゃがんで確認。

「……死んで、はないよなー」

息はある。ただ、体は酷く冷たい。どうやら長時間ココに居るらしい。フランは試しに肩をゆすってみた、相手は小さく反応すると前髪の間から閉ざされていた赤い瞳が露になる。

「ん、………っ?」

「あ、おはよーございます。ミーの事、覚えてますかー?」

唐突な質問。まだ覚醒しきっていない赤い瞳はふよふよと宙を数秒さ迷い、フランへと合わされる。自分の気のせいなのか寝起きのせいなのか、酷く瞳が潤んでいる様に見える。

「………ふら、ん…?」

「はい、よく覚えてましたねー。ジルさん」

「……ん、」

「こんなトコで寝てたら風邪ひきますよー?」

「んー…、」

「………あれ?」

何だか様子が可笑しい。さっきから赤い瞳は焦点のあってないまま、どこかトロンとしていて。顔もうっすら赤いような気がする。気になったミーがおそるおそる前髪をあげて露になった額に手を当ててみると、ソコは十分過ぎる程に熱を持っていた。

「…ジルさん、もしかして…熱…?」

「……ばか、オレが…熱なワケ、ないじゃん…」

「でも…顔赤いですし、やっぱり熱ですってー」

「ん、…ちがっ、もん…」

「はぁー…」

なかなか自分が熱を出している事を認めない相手に盛大にため息をはく。このままココに置いていくと悪化するかもしれない、とフランはジルの両足を片手で抱き上げ、もう片方は背中に。一般にいう、お姫様だっこというヤツだ。

「ふ、ぁ……やっ、なに、して…!」

「ミーの部屋まで連れて帰るんですよー。ジルさん、あのままじゃもっと悪化しちゃいますしー」

「…フランのトコ、って…ヴァリアー、じゃん…。やだ、よ…」

「でも他に行くトコないですよねー?そのままミルフィオーレのアジトまで帰れないでしょー?」

「んっ……そ、れは…」

弱々しくミーのコートに顔を埋める辺りは肯定だと思ってもいいらしい。熱のせいもあって抵抗される事はなく、ミーはジルさんを抱いたまま誰にもバレないようにアジトの自室につれて帰った。

弱ってるジルさんをベッドに寝かせて、ミーはこの邪魔なカエル帽子を部屋の隅に脱ぎ捨てて着替える。丁度いい事に今はルッスセンパイと隊長以外は出掛けてるらしい。とりあえず、ルッスセンパイのトコロに行って薬やらお粥やらを一通り貰ってきた。

「あら、フランちゃんったら風邪でもひいちゃったの?」

「ミーじゃありませーん。あ、ベルセンパイの服であまり着ていないようなヤツ…ありませんかー?」

「えーと…確か空き部屋に古い服はしまってたハズよ?」

「わかりましたー。…センパイの服なら丁度いいですかねー…」

ミーのその一言で全てを察したらしいルッスセンパイはまるで子供を見守る様な顔で(実際は似合ってないんだけど)見てくる。部屋を出る時には「他の皆にバレないように気を付けるのよー」なんて言ってくるし…余計なお世話。


「ジルさーん?お粥持ってきたんですけど…食べれますー?」

「、食べ、る…」

ゆっくりと、ダルそうに起き上がったジルを支えながら近くのテーブルにお粥と水、薬を置く。前よりも更に熱が上がっているらしく、呼吸も荒い。支えていなければフラフラと倒れてしまいそうだ。

「あ、ミーが食べさせてあげますよー。ほら、ジルさん。あーん…」

「ふ、ざけんな…よっ。オレ、1人でも…食べ、れるし…」

「まともに声も出せない人が何言ってんですかー。ほら、あーん…」

「ぅ…、ほ、ホントに…いいから…っ!」

あまりにジルさんが焦れったいから、顎を掴んで口を開かせお粥をすくったスプーンをジルさんの口の中に押し込む。多少嫌がりもしたけど、最後は諦めたらしく大人しくお粥を食べていた。…こういう素直なトコロはセンパイと違って可愛いんですよねー。

「っは、…ん、…」

「ルッスセンパイのお手製のお粥ですー、美味しいでしょー?」

「っ…ん、うまい…」

「じゃ、後はこの水で薬飲んでて下さいねー?ミーは食器片付けてきますんで」

そういって空になったお粥の皿やらを持って部屋を出ようとしたら、不意に服を引っ張られる感覚に思わずグラついた。(間一髪セーフだったけど)驚いて振り返ると、ジルさんがミーの服を掴んでいる。

「ジル、さん…?」

「その…行くな、」

「………え?」

「だからっ…、オレが寝る、まで……居てよ、」

……!な、何ですかーこの可愛い生き物は。今のでミーの手から食器なら何やらが落ちたんですがー。
ジルさんはと言うと、ミーの服を掴んだままクイクイとベッドの方へ引っ張る。ミーは仕方なくジルさんの隣へと体を沈める。熱でしっとりしたジルさんの肌とか、汗で額に張り付いてる前髪とか、潤んでる瞳とか、…なんか色々とヤバい。

「……ジルさん、ちょっと聞きたい事が…」

「…な、に……?」

「…なんであんなトコロに長時間居たんですかー?あれだけ寒いから風邪ひくってわかってたでしょー?」

ミーの質問にビクリと肩を大きく跳ねさせたジルさん。…どうやらワケありだったらしい。
だけどミーとしては理由を聞かないと納得出来ないので、ジルさんの顔を両手で挟んで無理矢理ミーの方を向かせる。

「理由があるなら、教えてくれませんかねー?」

「…………っ」

「ミー、理由聞かないと納得出来ないんでー」

「それ、は……」

「…もしかして、白蘭絡みだったりしますー?」

ミーの質問に肩を大きく跳ねさせた辺り、どうやら図星らしい。まぁこの人はミルフィオーレの人であって白蘭にも忠誠を誓ってる。ベルセンパイの兄でこれまた我が儘王子のジルさんが悩む事といったら、自分の上司である白蘭絡みの事しかないだろう。

「何が、あったんですかー?」

「……今日、白蘭様にジル君はもう任務に行かなくていいって…言われて、」

「………」

「…それが、白蘭様の期待に…答えられてないオレの所為って考えたら…何かイヤになって、」

「で、あの場所で長時間ボーっとしてたワケですかー」

「………うん、」

隣でミーすりよってくるジルさんの頭を数回撫でると、熱で弱っているジルさんは既に夢の世界に沈みかけている。

「ん、………」

「おやすみなさいジルさん、…白蘭よりもジルさんの事大切に想ってるヤツが居るって。忘れないで下さいね?」

聞こえてるかは、わからないけど。



報われなくても、大好きなんです


(これはミーの片想い)
(ジルさんが白蘭の事を考えてても)
(ミーにはジルさんしか居ないんです)
(だから)
(今だけキスしても)
(…いいですよねー?)


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