愛、アイ、I
□弟の苛立ち
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「うわああぁぁ!!」
ドタバタと2階から慌ただしく降りてくるジル。オレは既にリビングでオルゲルト作のトーストをかじりながらテレビを見ていた。あーあ、またかよ。今日で確か3度目だっけ?
「あーもう!何で誰も起こしてくれねぇんだよ!!」
「オレ起こしたしー、起きなかったのは自分だろ?」
「っ!!…そ、それは…」
「自分が悪いんじゃん。今日はもう諦めれば?」
「それだけはぜってーダメ!!」
慌ただしくテーブルの上にあったトーストを掴んで玄関を飛び出すジル。あーあ、アレだったらオレが自転車で送ってやっても良かったのに。テレビから目線を外して時間を見れば8時ジャスト、…ギリギリじゃね?
「ジル様、朝に弱いのさえ治されれば…」
「無理なんじゃね?…だってアイツ、バカで天然で鈍感なんだし」
「…はぁ……ん?」
オルゲルトが声を漏らした事に不審に思ったオレがそっちに目を向ける。そこに見えるのは見知った包みの弁当箱で。……あ、アイツ弁当忘れていってやんの。アイツらしい、白に所々に刺繍の入ってる弁当…こりゃ、オレが届けねーとアレだよな?昼飯抜きで1日もつハズねーし。
「ベル様、」
「わーってるよ、オレがジルに届けりゃいいんだろ?」
「はい、」
「ん、任せといて」
そういってオレも立て掛けてあったケース(中身は愛用ギター)を掴んで玄関から出た。そこで、ご近所さんたる幻騎士に遭遇。あれ、コイツが今ココに居るって事はジル…走っていってんの?何時もなら無理矢理でも車を出してもらってたのにさ。
「なあ、ジルは?」
「アイツか?今日はまだ見ていない…いや、ついさっき走っていたのを見たばかりだ」
「やっぱりか…さんきゅ、」
それだけ言うとオレはケースを背負い、自転車に乗る。さすがに自転車でも多少のスピードは出さねーと追い付けねーかな、とか思いつつペダルを思いっきり踏む。風が頬を撫でて、ちょうど気持ち良い。こっからだと学校までは、大体20分くらいで着く。
「ったく…弁当くらい確認してから行けっつーの、あの天然!」
オレが学校に着いた時間は既に8時半になるかならねーかって時間。あっちゃー…もう朝練始まってんじゃん。おそるおそる体育館に足を運ぶと、中からはかけ声やボールをつく音が聞こえる。やっべ…センパイも居るんじゃ…、と入り口の前でおろおろとしていると、
「ハハンッ、今日も寝坊ですか?ジル」
「っうひゃぁあ!?」
「おはようございます、」
「き、きき桔梗センパイ!!」
オレが入ってるバスケ部の部長で、守備も攻撃も天才的でオレの憧れの桔梗センパイ。…が、いつの間にかオレの真後ろに立っていた。っつーか普通にこえぇ!足音、っつーか気配さえ感じなかったんだけど!び、びびったぁー…。
「ハハンッ、もう部活は始まっていますよ?」
「ぁ、えと…そのっ、…遅れて、スイマセン…」
「誰も咎めてはいませんよ、…ほら、始めますよ?」
「っ…はい!」
桔梗センパイは優しい、と思う。現に今だって、遅れたオレの事を起こりもせずに頭を撫でてくれるし…あー、あんなカッコいい人になりたい!
小さく笑って体育館の中へと入ると、他の奴らは既にドリブルやシュートの練習をしていた。オレも、適当にボールを持ってくると自分が一番苦手なシュートの練習をする事にした。
「っ…ちくしょー!何で入んないんだよ」
…認めたくねーけど、オレはシュートが下手。いや、そりゃ…多少は入るんだけどな?ほとんど外れる確率の方が多いんだけど。
何度もボールを投げるけど入らなくてイライラしてたら、ボールを持つオレの手に添えられた別の手…。
「ハハンッ、集中力を乱したままじゃ入るモノも入りませんよ?」
「き、きき桔梗センパイ!?な…何をっ?」
「私が支えてフォームを固定させます、ゆっくり息をはいて…」
「んんっ…あの、センパイっ…オレ、1人で」
「ダメです、君には近いうちに私のパートナーになってもらいたいと思っていますから」
ボールを構えるオレの後ろから手を固定するみたいに添えるセンパイ、しかももう片方の手は腰を固定してるし。は…恥ずかしいっていうか…そのっ、余計に集中出来ねーっつーの!!
声も、耳元近くで聞こえるからくすぐったいし…。
「…そのまま重心を安定させて、そう。ボールを持つ手はしっかり固定して、」
「んっ、んん……こう、ですか…?」
「そう、そしてそのまま…シュート!」
センパイに言われた通り、固定したフォームのままシュートを放つとボールがキレイにゴールの中へ。あれ……入った?オレが、入れた?しばらく唖然としていると、後ろから小さな拍手。見ると、桔梗センパイがオレを見ながら拍手をしていた。
「ハハンッ、丁度朝練も終わる時間です。…そろそろ戻りましょうか?ジル」
「は、はいっ!!」
体育館から出ていくセンパイの後を追って、オレも
バックを持って体育館を出ようとした…けど、
ゴンッ
「っい゙っだぁ!!?」
凄い音と共に走った頭への激痛。何かが頭に直撃したらしく、ズキズキと痛む。いったぁ…一体何が…、とうずくまったオレの足元にはオレの弁当があって。…ん?弁当?
「ししっ、いい気味じゃん?ジルよぉ」
「ベル…?っ…て、めぇ、ふざけんなよっ…」
「それはこっちのセリフだし。…せっかく忘れてた弁当届けに来たのによ」
「………え、」
ベルはそれだけ言うと、さっさと自分の教室へと行ってしまった。心配した桔梗センパイが頭を撫でてくれたりしたけど、それよりもオレにはベルの事が気になって仕方なかった。
弟の苛立ち
(…だからアイツが朝練に行くのはイヤなんだよ)
(大体、何でオレがあんなバカと誰かが何かやってるとイライラするかわかんねーし)
(ああーもう!意味わかんねー)