11/01の日記

12:52
※書き途中
---------------
双子の零崎、幸織と天識。

神を妄信する姉と姉を妄信する弟。





「二人で一人だなんて名乗るほどに…私たちは同一ではない。」


細長い細長い鉄製の棒を片手に握り締め、少女は呟いた。

目を伏せ、足元に転がる死体に向けてただ一人独白を続ける。


「まず性別、これはどうしようもなく対極もしくは同一しか図れない、そういうものである…と、私は定義する。」

淡々とした口調は一呼吸の後、再び続いた。

「つまり私と弟は、私と弟が女と男である以上、どうしたって対極に位置する、位置してしまう存在であり、それはもう、何かが何かになったってどうしたってどうにかなったって、変わりようの無い事実、不可変の事実であり…また必然的にそうあるべきなのだ。」

最後の一文を溜める、独特の話し方はここで一旦途切れた。とくに意味のある沈黙ではなかったが、あえて理由をあげるならば、すぐそこにある曲がり角の向こうから駆けてくる片割れの足音を聞きつけたからだった。


「幸ちゃーんっ!」

「およそ三十分振りだね、おかえりと言うべきなのかな…天識くん」

「はーい!たっだいまー!

 もう僕早く幸ちゃんとこに戻りたくて頑張っちゃったよー!全然必要なかったけどさ、でもでも偉くないっ?僕いつでも全力で頑張る子だよ!いつでも幸ちゃんのために全力発揮だよ!ねえ、褒めてほめて!僕の希望としては幸ちゃんに頭を撫でて頂きたいの!いい?いい?」

「私の方も大方片付いたよ、どうせすぐに無意味になるだろうけど、とりあえず…ありがとう」

よしよしと少女の手が少年の頭に乗る。少年の髪が手の動きに合わせて揺れた。本人はといえば、頬を赤く染め、恍惚とした表情で心地良さ気に目を閉じている。

少々度が行き過ぎてはいたが、それは確かに姉弟の微笑ましいワンシーンであり、神聖な雰囲気さえ漂わせていた。



だから、少女の足元に這いつくばっていた、男か女かすらも分からない程に壊れた人間が静かに、そして俊敏に動いたその動作が酷くその場に不釣合いだったのは言うまでも無く、それまでの柔らかな空気はあっさりと霧散した。


「…ん?」

「あれぇ?」


撃たれる銃弾を左右に開いて分かれた少女と少年は、同じような動作で首をかしげた。


「幸ちゃーん、あれプロのプレイヤーさんなのぉ?」

「気づかなかったけれど、どうやら…そうらしい」

「すごいねー、幸ちゃんいつもみたいに殺したはずなんでしょー?ギリギリだけど死んでなかったんだね!」

「ああ、まったく嫌になる、嫌いだよ、あんなに血を流して瀕死の人間なんて…はっきり言って興味がない」


そして首を緩やかに数回振り、手に握った血まみれの細くて長い鉄の棒、正式には血まみれの長い長い長い釘の先端部分を、横に薙いだ。しかし紙一重で避けられる。何度か軌道を変えて試してみるも、既に間合いやら何やらのその他諸々、攻撃に必要な条件を見切られたらしい。つまり、攻撃不可能になってしまった。

困った…と、ため息をつこうとするもいつのまにやら口を塞がれている。何だ。


「………。」


万感の思いを視線に込めて、口を塞ぐ右手の持ち主を見つめた。残念なことに、それは生まれたときから共に人生を歩んできた我が片割れだったりするのだった。


「だめ、だめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめ!ぜえええええったいにだめっ!

 幸ちゃんため息ついちゃだめなの!」

「………。」

「何故ならなぜならっ!ため息をつくと幸せが逃げちゃう、そうなのです!

 幸ちゃんは知らないのかなっ?そんな幸ちゃんも可愛いけど、知らない内に幸せいっぱい逃がしちゃうじゃん!幸ちゃんの可愛いお名前っ、せっかく"幸せ”がはいってるのに、だめだめそんなの断固反対っ、だよ!
 幸ちゃんが幸ちゃんじゃなくなって、ただの織ちゃんになったらなんて、そんな怖いこともう考えるだけで…ううっ、そんなの僕絶対ヤだからねっ!」


絶対に意味合いが違う。

とは思ったが、悲しきかな、この弟に何を言っても無駄なのだ。


何だか微妙にやるせない気分になりながらも小さく首肯し、そっと腕に触れて離して欲しいことを意思表示すると、あっさりと拘束は解けた。かわりとでも言うかのようにふくれ面の弟がのしかかってきた。重い、とは思わないが。敵を前にして少々邪魔くさいのは否めない。

前へ|次へ

コメントを書く
日記を書き直す
この日記を削除

[戻る]



©フォレストページ