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□愛、又はそれと同等の恐怖。
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《side M》
くだらない世界だ、と思う。
直ぐにでも壊してしまいたくなる。
この世界に貴方がいなければ…。
存在価値。
この世界の価値について考える。
それから自分の価値。
そして…彼の価値。
薄汚れた安いベッドが一定のリズムで軋む。
自分の上で必死に腰を振る男が、あまりにも滑稽で――クスリと口だけで笑った。
「随分と余裕だなぁお兄ちゃん。…それとも輪姦されすぎて狂ったのか?」
酒瓶を片手に周囲の男が豪快に笑う。
意識してナカを締めれば、四人目の男の精液が出される。
先に出された他の男のものと混ざって溢れ、伝う。
抵抗はしていないから、酷くはされなかった。
快感だけを追えば、この行為はそんなに悪くない。
最初に口でしろ。と言われ、断った。
『口ではしません。キスもしたくありません。そのかわり…それ以外なら何でもしてあげますよ。抵抗もしません』
『…お前…イカレてんのかぁ?』
『まさか。都合が良いでしょう?』
微笑して言えば、多分薬でもキメてるんだろう。と思ったのかそれ以上は何も言わなかった。
その契約を律儀に守っているのだから、案外可愛いものだと思う。
全員を受け入れ終わり、さて――と服を着込みながら立ち上がった。
四人にレイプされて、何事もなかったような足取りで立ち上がるのに、男達が僅かに驚く気配が伝わる。
「…お前」
「楽しんで頂けましたか」
「あぁ、最高だぜ」
「僕は…良かったですか?」
妖艶に微笑めば、――ゴクリと唾を飲む音が聞こえた。
――単純だな。
「よぉ、兄ちゃん…俺らの女にならねーか?」
興奮した目つきで尋ねてくるのに、骸は残念そうに眉を下げた。
「あぁ、それはできません。何故なら――」
「…っ!?」
男達の声にならない叫び声が狭い部屋に響く。
三叉の槍を出して一分後には、その場で息をしているのは骸だけとなった。
耳を裂く静寂の中、呟く。
「…貴方達はここで死ぬのですから」
槍に着いた血を一降りして払い、外へ出る。
――道理で寒いわけだ。
街灯の下、空を見上げて佇んだ。
真っ黒い闇の中から途切れることなく雪が降り続けている。
今や世界は真っ白く染まっていた。
一歩足を踏み出せば、――キュ…という小気味の良い音がなる。
耳鳴りのするような静寂の中、もう一歩を踏み出せば、ナカから温かなモノが伝うのが分かった。
帰って、シャワーを浴びて。
綺麗にしないと…と思う。
同時に、もう綺麗にはならない…とも思う。
落としきれない程に汚れてしまった。
こんなことは、別に今日が初めてじゃない。
…カラスはキラキラと輝くものに惹かれるらしい。
生れつき真っ黒な自分達にはない、目も眩むような輝きを欲しがる。
人間も、自分にはないものを持つ人に憧れると言うが…
だからだろうか?
――こんなにも惹かれるのは…。
まるでこの雪のように汚れのない、彼を思う。
あまりにも綺麗だから。
きっと自分が触れたら、そこからシミのように汚れが広がってしまいそうで…怖くて仕方がない。
槍から滴る数滴の血が、雪に染みてピンク色に広がるのを見ながら思う。
――貴方が…怖い。