パラレル

□教習所
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「せんせー。仕事やる気あんですかァ?」
「ああ?」
「さっきからまったく俺の運転見てないでしょ」

路上教習6回目、やっと普通の道路を走るのにも慣れてきて周りに気を配ることもできるようになってきた。

で、気づいたのが俺の担当教官、坂田の態度。
俺が真剣に運転してる横で今日もだるそうにあくびなんかしてやがる。

こんなんで本当に俺の運転がどうとかチェックできてんだろうか?

「助手席座ってドライブして、それで給料もらえるなんてほんといい仕事ですよね、教習所の先生って。俺もなろっかなー」
「はいはい。だったらまずその前にまず免許取ってくれよ。一発合格してくんないと俺の評価も下がるんだからさ」
「先生がちゃんと教えてくれたら一発合格できると思うけど、今の状態ってまるきり放置じゃないんですかー?」
「俺が口も手も出さず乗ってやってる、イコールいい出来だってことだよ。安心しなさい、沖田くん。俺だって生徒と心中するつもりもないしな」
「ふーん…」
「ちゃんと前見て運転しろよ、この辺仮免のコースだぞ。ほら、その角。木の陰に標識隠れてっけど一時停止だからちゃんと止まる。これで止まれなかったらブレーキ踏まれて一発不合格だからな」
「それ、この前も聞いた」
「こういうのは何度聞いててもいいの。毎回言ってやってんのに絶対落ちる奴がいんだから。沖田もこれで落ちたら俺のせいじゃない、自分のせいだからな」
「あ、職務放棄」
「違いまーす。こっから先は生徒の実力にかけてんの。じゃあほら、最後そっち右回って今のとこ一周。そしたらちょうど戻るのにいい時間だろ」

先生が指さしで俺に指示する。
その右薬指に光る指輪。

「それよりさ」
「なに?」
「先生って結婚してんの?」
「結婚?」
「だってしてんじゃん、指輪。右手だけどなんか、ソレっぽい」
「気になんのか」

先生の顔見たら、ちょっと意地悪そうな笑い。
なんか大人な感じがする…

「別に…」
「ふーん。だったら教えない」
「え?…ケチ」
「ケチじゃありません。大体何でも聞いたらすぐ答えを教えてもらえると思うほうが間違い。そもそもプライベートな話だしー」
「俺はいないと思う」
「ああ?」
「奥さん」
「なんで」
「なんとなく。てか、そういうの似合わなさそう」
「じゃあどういうのが似合うって?」

肩肘ついて口に笑いを浮かべながら俺を見つめる先生。
もし結婚してたらこんなふうに奥さんにも笑いかけたりするんだろうか。

「わかんないけど、なんか似合わない!」

先生の視線から逃げるように前を向くとそのままアクセルを踏む足を踏み込んだ。
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