銀沖長

□きっかけは何とでもF 闇夜
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「こんなとこで見張りですかィ」

暗がりから聞きなれた声がする。

「総悟・・・!」

その瞬間、反射的に総悟に駆け寄り力いっぱいその身体を抱きしめていた。

「お前、帰ってきたのか!」
「・・・遅くなりやした」

表情のない声。
思わず抱いた腕を解き総悟の顔を伺い見る。
視線を合わせようにも、その目は俺を見ていない。

「あいつには・・・会ったのか?」
「会いやした」
「・・・それで?」
「終わりやした」
「え?」
「旦那ときっちりカタつけてきやした」
「あ、ああ・・・」
「今日、初めて大人になりたくないって、本気で思いやした」
「総悟・・・?」

名前を呼ばれてやっと視点の定まらなかった瞳に光が戻る。

「お前、大丈夫か・・・?」
「土方さん」
「な、何だ?」
「今回の件ではいろいろ迷惑かけてすいやせんでした」
「どうした総悟、いきなり神妙になって。俺は別に迷惑なんて感じてないぞ?」

冗談ごかして頭を撫でると、その腕を何気にはずされた。

「土方さん、悪いんですが今日は疲れたんでもう休みまさァ」
「お、おお・・・」

するりと腕をすり抜け歩き出す総悟の背中を見送る。
それ以上は声をかけられなかった。
いつもと変わらないように見えるが、心なしか頼りなくも見える。

これでいい・・・これでいいのだ。

今は寂しく思っても、この決断がきっと正しかったと思う日が来る。
そして、本当に必要な相手とめぐり会うのだ。





俺も総悟の後に続き部屋に戻ろうとしたその瞬間、耳に細い女の声を聞いた。

「あの・・・すいません」

気のせいかと思い、声のほうを目を凝らして見る。
視線の先に一人の女。

「おい、こんな夜更けに女一人じゃあぶねえぜ。家はどこだ、送って・・・」

その瞬間、後頭部に鈍い衝撃を感じた。
いつもなら感じる気配、すっかり気が緩んでいたようだ。


薄れゆく意識の中に見知った顔を見たような気がしたが、すべては暗い闇の中に消えていった―。
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