銀沖長

□きっかけは何とでもB 二つ道
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「・・・ああ、キスくらいはあったかな?」

キスだと?
あの総悟とキスしただと!?
俺は万事屋の胸倉に思わず掴みかかった。

「何回した!お前総悟と何回キスしたんだよ!」
「ただのおふざけだよ、多串くん」

俺の怒りとは逆に、奴は飄々と返事を返す。

「おふざけだぁ?」
「そう、ふざけて。だいたい彼はまだまだ子供でしょ、俺みたいな大人にはまだまだ役不足だよ」
「それは本心か・・・?」
「ああ。何より俺は節操なくてね、穴がありゃなんでもいいわけさ。男でも女でも」
「なにぃ!?」

胸倉を掴んでる俺の手に万事屋の手が重なる。

「多串くんだって好きでしょ?キモチいい事。入れて、擦って、出して天国って。ああ、でも多串くんは入れられる・・・」
「万事屋!」
「よく見りゃ、多串くん。君、なかなかいい線いってるよ。少々年はくってるが、その分あんなガキより具合はよさそうだ。なんたって、あのゴリラに可愛がられてるんだからね」
「なに・・・んっ!」

そのまま胸元を引っ張られ、気づけば身体は反転し万事屋の下に抑えこまれ、俺の唇は奴によってふさがれていた。
引きはがそうと体を押しのけようとするが、思うように力が入らない。

「逃げられないでしょ。人間の身体ってね、押さえどころによっては少しの力で動けなくなるんだよね」
「どけっ!万事屋!」
「交換条件、って言ったら?」
「何・・・?」
「多串くんが俺と寝るなら、沖田くんからは一切手を引く。心配なんだろ?沖田くんが」
「おま・・・最低だな・・・!」
「言われなくても。でも、悪い話じゃないと思うよ?もちろん、この事はゴリラにも黙っといてやるよ」

万事屋の言葉が本気か、嘘か、その目を睨みつけても一向に答えは見えてこない。

「さ、どうする?」
「ふ・・・ざけるな!」

俺は出せる限りの力を込め、万事屋の額に頭突きを食らわせた。
俺の動きを予想していなかったためか、一瞬の隙をつき俺は万事屋の下から抜け出した。

「お前の交換条件に乗るつもりもないし総悟をお前に渡すつもりもない!二度と総悟に近づくな!」

万事屋はゆっくり体を起こしたが、一切こっちを見ない。

「分かったな!」
「・・・ああ、そうしてくれ。いい加減俺もガキの子守は疲れたんでね・・・そうしてくれりゃ助かるわ」
「お前・・・本当に最低だな・・・」

何も言わない奴に吐き捨てるようにして、俺は万事屋を後にした。



あいつは本気じゃなかった。
ただ、いたずらに総悟にこなをかけ、本気になりそうな気配を感じ逃げた。
そんな最悪な男なんだ。



屯所へ向かう間、俺は総悟に伝える言葉だけを考えていた。
奴は総悟に近づかないと言った、ガキの子守は疲れたとも。
あいつの本心を知ればきっと総悟は目が覚める。

自然に笑みがこぼれた。
これで、うまい煙草も吸える。


俺は心に誓った。
総悟の幸せは、俺が絶対守ってやると―。
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