Short story

□ジョルジ少年と伯父と来客の話
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ジョルジ少年伯父の話


 その日、乾ききった国土に、恵みの雨が降り続いた。
 たくさんの雨つぶの坊やたちが、久々の活躍に歓喜し、雨どいを滑って小気味良いステップを奏でる。
 屋敷の主人はテラスへ肘掛椅子を持ってこさせ、久々の小さな来客と指先で戯れていた。
 すらりと長い指の上で、雨つぶ坊やはキャッキャと声をあげて体を踊らせる。
 屋敷の主人は坊や驚かせないよう、時々小声で声をかけては、指先を動かして遊ばせてやるのだった。
 太陽の輝く清々しい青空から、まだ生まれたばかりの雨つぶ坊やたちがきらきら輝いて落ちてくる。
 やがて屋敷の主人が指を差し出すと、遊び疲れた坊やは、空からやってきた兄弟たちとひとつになり、戯れながら大地に舞い降りていった。
 主人はしばらく芝生の上を駆け回る坊やたちを眺めていたが、やがて腰をあげると、屋敷のほうへ振り返った。
 自分と同じ目をした少年が、テラスの影から大人びた顔つきでじっとこちらを見つめている。
 少年は伯爵が自分に気がついていたことに気づくと、慌てて生意気そうな表情を作った。

「おじ様、お客様がいらしたようですが」

 叔父を真似たゆったりとした手つきで、少年がテラスの扉を開ける。
 伯爵は頷くと、長い腕を伸ばして座り疲れた体をほぐした。

「あぁ、ようやく来たようだね。入ってもらっておくれ、ジョルジ」

 甥っ子が、はい、と返事するまでもなく、来客はそばにやってきていた。
 傘も持たなかったというのに、男は不思議とこの恵みの雨に当たらなかったようだった。黒ずくめのマントの下から、包帯の巻かれた手をすっと伸ばし、頭上のシルクハットを取る。
 伯爵に軽く会釈をすると、来客は案内を終えたジョルジに向かってにこりとした。
 青白い顔の男は、人の良さそうな微笑みを向けたが、裂けた口元を縫ったあとに気づいて、ジョルジは挨拶を返さなかった。


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