汝、風を斬れ
□第十章
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「――さてと」
セントは呟いた。昨夜から城の近くに潜み、ジンと話をすることができなかった。今、ジンとキュアはどうしているのだろう、もう隣国へ着いただろうか。
「門ン中入ったけど、どうするかな」
少し説明を加えると、セントの後ろには二人ほど反乱兵が伸びている。片方の反乱兵から、その証であるらしい、この国の国旗の色を反転させた腕章を拝借して、披眼殻、伝声機を出し、セントは反乱兵に扮した。
セントは少し高いところに登って、城を見渡す。
「お」
一ヶ所、窓の開いている人気のない部屋がある。よし、とセントはそこを降りて、自分に魔法を掛ける。姿が見えなくなる魔法だ。しかしこれはかなり体力を消耗するので、使える時間は短い。
ここの部屋は…。どうやら客室のようだ。天蓋付きのベッドに誰かが休んでいる。物音を立てずに、ひらりと部屋に入る。そのままドアの方へ進む。廊下に人のいる気配はない。鍵穴から覗く限り人の姿はない。
セントはドアノブに手を掛けた。動かない。鍵が掛かっている。…どうする。
「誰かいるの?」
自分に警告を与えるための耳鳴りがして、魔法は解けた。
「…まさか」
ベッドから出てきたその人は、セントを見て、危惧の言葉を口にした。
セントは振り返り、その人を見て、同じ言葉を口にした。
「まさか…」
「セント」「母さん」