汝、風を斬れ

□第八章
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しばらく泣きました。不安など、そういった気持ちの前に、一緒にいられないことが悲しかったのです。ジンの胸は知っている匂いで、とても安心しました。
 私が「セント…」と声を漏らすと、ジンは私に回していた両の手に少し力を入れて抱きしめてくれました。彼も何か不安なのだろうと思いました――

「ありがとう、ジン。もう大丈夫」
体から離れる。赤くなった目。ちゃんと冷やさなきゃ…。
「戦力は、減りました」
ジンは断言する。
「うん」
「改めて、ここに誓います」
ジンは息を大きく吸った。
蒼い目。優しい目。
「私は命に代えて、あなたを守ります」
物心つく前から私の傍にいた人。
「だからあなたは生きて下さい」

一人で行く、というのは気楽なものだ。三人で進むには1日かかった道則も半日とかからない。しかし、過日と比べて町が乾いている。
遠くに見えるハートリックニアの城の高い塔。白い城壁がくすんで見えるのは、何も天気のせいだけではない。

 子どもが、いた。
 服は粗末。埃の舞う街にうずくまっている。
視線に気付いたか、顔を上げた。セントを見て、その子供はあわてて建物の影に隠れる。セントはその後を追う。子供の顔に見覚えがあった。
 しかし、向こうは何故逃げる…背中の太刀か。
 刀を消した。
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