汝、風を斬れ

□第七章
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「キュア、起きて」
東の空は明るいが、まだ太陽は完全に出ていない。
セントはキュアを起こした。
「宿の人に断ってあるから」と染め粉の入った布袋を渡す。
「お湯、もらってきな。久しぶりだろ?」
キュアの顔がにわかに明るくなる。

時間とお湯をたっぷり使って体を綺麗にし、髪を洗い、念入りに染める。
部屋に戻ると、宿の女主人がいた。
「すっげぇこれうめぇ。何、鶏のダシで煮んの?」
「よかったら調理法を教えていただけませんか?」
女主人は二人の相手をにこにこして、している。三人の話のネタになっているのは、ソルド豆の煮物だった。

「そぅいやお嬢ちゃん、姫様に似てるわね」
食卓についたキュアを見て、女主人が言う。一同ぎくりとするが、顔には出さない。
「ほらこれ」がさがさと前掛けのポケットから一枚の紙を出す。今のキュアより少し幼い頃の姿絵。大量に刷られたのだろう、質は悪い。
「どうしたの、この紙…」セントが聞く。
「昨日の夜にねぇ、兵隊さんが来て置いていったのよ」
『我が国の姫君が逃亡した 有力情報提供者には150万 身柄拘束者には300万進呈す 義軍』
 ――何が義軍だ。
「ほかに何か言ってた?俺も三百万欲しいし」
セントは再び問い、手を伸ばしたジンに紙を渡す。
「兄ちゃんが格好良いからね、特別だよ?」
女主人は続け、セントは身を乗り出すように聞く。
「王族の髪の毛…あの綺麗な青の色から、少しなんだけど、不思議な光が出てるんだって。えらい学者さんがそれを探せる機械かなんかを作って、お日様が出てる間だけ使えて、それで姫様を探してるんだってよ」
紙を手に取ったジンの後ろからキュアが覗く。
「本当だ…お前にそっくりじゃないか。自分の‘妹’がこんなにも姫様に似ているなんて、光栄、と言えばいいのか」
…ジン。
「あら、二人は兄妹かい」
「はい。で、緑の方は用心棒です」
「ま、随分態度のでかい用心棒ね。兄ちゃん」
「腕が立つからね」
「それしか能がないんです」
あははは。
女主人が去るまで三人は極々自然な演技に努めた。
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