汝、風を斬れ

□第四章
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 第四章  立場

 ヴァーンの向こうは、職人の町、ジアロが続く。多種多様な職人達が軒を連ねるこの町は、織機や槌の音、物売りや子供の声で賑わう。その一角に、若い夫婦が切り盛りする、子供向けの玩具とガラス細工の工房があった。妻の父親は五年間、その背中にあこがれて家を飛び出した弟は戦地に行ったきり、四年間戻っていない。その間に、幼友達であった夫と結ばれた。この秋が過ぎて冬の終わる頃に、家族が増える。

「サラ」
 夫は妻を呼ぶ。
「サラ、コロロの木の積み木はいくらだったかなぁ」
 返事がない。
「すみません」
 と奥へ入る。
「ニコイ、無理はさせるなよ。私の方はまた今度でいいから」
 客の老父が工房の主に言う。初孫が三才になる。やがて、工房の主が青い顔をして出てきた。
「ゴウのおっちゃん……サラが……サラがいないんだ!!」
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