汝、風を斬れ
□第三章
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第三章 逃走
三日程前。ハートリックニア城の地下室に男が二人。
輝く緑色の髪の男と、鉄色の髪の男。
苦しみ喘ぐ鉄の方。それを見て楽しそうに笑む、輝く緑の方。
床に転がる薬の瓶。
夜が明けた。と言っても、床に就いてからあまり時間は経っていない。ジンは姫の呼吸がいつもと同じリズムを刻んでいるのを確認して、朝食の支度に取り掛かった。
天幕の外は、深い霧の世界だった。近くの川で水を汲んで、沸かす。霧が晴れていたらできないことだ。そういえば、セントの姿がなかった。はっとして天幕の中を覘くが、まだ姫は眠っていて、何ら変わりない。伝声機からは何も聞こえない。
「おはよう、ジン。いい匂いね」
王女が起きた時には、霧もずいぶん薄くなっていた。火も消えている。
ジンは彼女に気づいて、深く礼をした。
「おはようございます、姫」
城の中では、何人もの人が彼女に礼をした。こんな静かな朝は、初めてだった。