†ディクユウ†

□誘惑
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 良く晴れた日曜日の朝。
 コーヒーの香りに和みつつ、簡単な朝食を準備する。
 ユウの作れる物は限られていて、今日はこんがり焼いたトーストとハムエッグのみだ。まぁ他人の家で好き勝手するのも気が引けるから仕方ないのだが。
 完成に近づいたころ、

「……ん」

 少し離れたベッドからもそもそと身じろぐ気配がした。

「…あ、起きたのか?」

 相手の喉が鳴る音にユウはコーヒー片手に近付く。

「んー…まだ眠ぃ…」
「お前、どうせ遅くまで本読んでたんだろ」

 苦笑しながらコーヒーを差し出すと、返事もそこそこに飲み始めるディック。
 昨日は彼の家で他愛のない話をして、そのまま泊らせてもらったのだ。
 ユウは先に寝てしまったから彼が何時に寝たかなんて知らない。ただ眠たそうな様子からして、結構遅くまで本でも読んでいたのだろうと解釈した。

「ちゃんと寝た方がいいぜ?お前まで禿げたらどうすんだよ」
「え……、アレと一緒は嫌さ」

 すぐ頭によぉく知ったパンダが浮かんだのだろう。ディックは眉を寄せて首を振った。
 彼の様子に笑いながら隣に腰掛ける。
 寝起きでもコーヒーを飲む姿勢はなんだか優雅だ。そう見えるのはユウの目だけかもしれないが……。

「…今日もユウは綺麗さ」
「え…」

 唐突に言われて目を丸くする。いつの間にかじっとこっちを見られていた。

「肌白くて…、唇は薄いのに柔らかい…」

 言いながら、ディックが唇を撫でてきた。
 自然な流れで一瞬何をされているのか理解できず、耳まで真っ赤になるまでに少し時間がかかった。

「ば、バカじゃねぇの!」

 ぷぃっと顔を逸らし、赤い顔を隠す。

「朝っぱらからイチャラブしてるさねー」

――!?

 最初は急にディックの声のトーンが変わったことに驚いたが、後ろから抱き締められたことに更に体が硬直した。
 声の主はディックじゃない、あまりにも似た声だったから勘違いした。

「な、なんでテメェがここにいんだよ!」
「暇だったからー、ユウに会いにきたんさ」

 ハートを乱舞させながら体を放そうとしないラビに、ユウは顔面をぐぃぐぃ力いっぱい押す。

「いたたたたっ!ちょ、ユウちゃん乱暴はいけんさ」
「テメェが言うなバカ!」

 ディックは眉を寄せて不愉快そうにしながらも、急に現れた兄に動じることもなくコーヒーをすすっている。
 そんな中、まだ離れようとしないラビの首根っこを掴み、――ポィ!カチャ。

「ユウ――!!ユウユウ開―けーてー!!!」

 しっかり扉を閉めて鍵をかける。

「……煩い」

 廊下で喚くラビにディックが冷たく一言零した。

「アイツ、どうにかなんねぇのか?」
「どうにもならんさ」

 毎度のことで、ディックからは溜息しか出てこないのは無理も無い。

「ユウちゃん愛してるさー!!だからオレを捨てないで――!!」



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