駄文
□眼鏡
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「なぁ、その眼鏡見せてくれよ」
剣の手入れをしていたかと思えば、ガイは口を開いて突然そう申し出た。かわってジェイドは本をぱらぱらと捲っていたので、きょとんとガイを見やる。
「あなたもたまに脈絡の掴めない話し方をしますね」
言外に、どこぞの赤毛のように、と含んで笑う。ルークのことをネタにからかうのは最早ガイに対して儀式のようになっていた。予想したように相手は少し眉尻を上げていつものように不機嫌な顔を見せ、何だよと呟く。
「前々からそれは見せてもらいたいと思っていたんだ。今だと2人部屋だし旦那も暇そうだし、空気読めば何ら不思議はない展開だぞ」
「陛下が空気は吸うものだと」
「妙なとこだけ言うこと聞くなよ」
喋りながらガイは刀を仕舞い、ジェイドに近づいて頭を軽く抱えて見せた。
その様子にジェイドは違和感を覚える。
「…ガイ?」
「ん?何だ旦那」
「…いえ。気のせいです。何でもありません」
いつもならざる近い距離。人と馴れ合うことを好かないジェイドが無意識に人と距離をとっているのを知ってガイはその距離を保っていた、ように感じていたのだが。
何てことはないくらいのかすかな違和感。
「なぁ、頼むよ」
「断ります。偏執狂に触られる眼鏡の身にもなってください。居たたまれないでしょう」
眼鏡の位置を正しながら笑うとガイもニッ、と唇を横に引く。
「じろじろ見つめられるのが?」
「それと勝手にいじられることが、ですよ」
ジェイドは本を傍の机に置いた。ガイとの距離はもう1mない。
「見つめられて、いじられると居たたまれないのかい」
「ガイ、怒りますよ」
「何に?」
「それこそ空気を読め、ですね。そんなに見たいなら貸しますよ。勿論分解、改造は無しです。明日の朝には返してください。私はもう寝ます」
眼鏡を外して差し出すと、ガイの瞳には少しの揺らぎが見られたが、差し出した腕を掴まれる。
「っ」
戸惑いが限界に来て舌打ちのような声が零れたのを聞いてガイは目を丸くして破顔した。
「何ですか。離してください」
「ここで舌打ちがくるか」
「さっきからあなたの行動が読めません」
「それでいいんだよ、ジェイド」
「……」
表面上笑顔は保っているが、ジェイドが全然笑えていないことが分かったガイは愉快でたまらないと悪戯っぽく笑った。
「からかっていますね。年寄りを苛めるものではありませんよ」