駄文
□大きな独り言
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「ずるいです。あなたは」
「何がだ」
「もてない男の僻みです。どうせ」
「おい、お前、酔っ払ってないか」
「なんですか、警察にでも突き出しますか。周りだって飲んでるじゃないか、なんて陳腐な言い訳はしませんよ。ええ、飲みましたけど何か」
「まてまて、いい、いいから、絡むな。酔っ払いほどうざいものはない」
「じゃぁ、黙ってますよ。起きてると喋ってしまいますのでね、寝ます。では、おやすみなさい」
「…俺の部屋なんだが」
「寝てます。なんにも聞こえません。ぐー」
「うっぜぇぇ!」
「あー…傷つきました」
唐突に部屋に押しかけてきたかと思うと、胡坐をかきぐだぐだ、ふらふらと絡んでくる古泉。らしくないのは酒を飲んでいるせいか。
「ああ分かったさ、聞いてやろうじゃないか。お前の言い分を。何かあったから来たんだろう」
「何か…ありましたっけ…。何となくここに来てしまったんです」
「…俺の家は居酒屋の延長かホテルか。俺がずるいってのは何だ」
「……。なんでもないです。言語化するのは、難しいというか腹立たしいというか」
「長門みたいなこと言うな。そして話したくない理由の割合は後者が圧倒的に多いな。話せ」
「あー、そうですね…、今の僕の説明がいつもより要領を得ないのは火を見るより明らかなんですが。酔っ払ってますしね」
「いつも得ていないから安心しろ」
「眠いなぁ…。そう僕はあなたに文句を言いたくてたまらないんですよ」
「ほうなんだ」
ぐずぐずと前髪を机に引きずって顔と目をこする。猫みたいだ。
「涼宮さん、朝比奈さん、長門さん、彼女たちはあなたに好意を持っている」
「……」
「加えるなら僕も」
「きもい」
「この現状はあなたの、懐が広いため、と言えるでしょう」
きもいきもいと言いながら、こうやって僕の話も聞いてくれますしねー…と呟く。
あー、何だ、違和感の正体が分かったぞ。隙だらけ、だ。この酔っ払いは。
「広く、人を集めてしまってるんですよ。正直そこも羨ましくあります。僕にはない才能です。僕自身、まぁこれもあなたはきもいとおっしゃるんでしょうが、魅かれている立場でありながら」
こちらを眺めていた瞳がふい、とそっぽを向く。
「ここまで吐露するのは、どうなのでしょうね。あとで後悔、いや反省しなくてはいけなくなりそうな気がするのですが…」
言いにくい心理が働いてか、古泉の行動は眠りに逃げるかの様に瞳が細まる。
珍しく古泉が本心を見せているんだ、眠らせてはもったいない。
「大丈夫だ。古泉。これは夢なんだ。言ってしまえ」
とろんとした瞳が向き直る。
「夢…」
「そうだ夢だ」
「はぁ、夢ですか。そういえばあなたはいつもより優しい気がしますしね…」
「古泉、お前はいつも頑張ってくれている。さあ、俺にそのわだかまりをぶちまけてしまえよ、な」
「夢ですね。ありえない。僕はついにこんな夢まで見るほど疲れてしまっていたのか」
言外にきもい、と滲ませながら失礼な言葉を吐き、頷くが、ここは酔っ払い、耐えろ俺。
「おとことしては複雑です。僕の好きなひとさえも、あなたにひかれてしまっている…」
夢とわりきったのか、古泉は手を伸ばして、机の上においてあった俺の手で遊び始める。どんだけ飲んだんだこいつは。
「全く困ったものですよね。僕は彼女も彼も好きなんです。どちらもくるしい…」
語尾が消えいったかと思うと、ぱたり、と俺の手と古泉の手が机に落ちた。