02/23の日記

21:05
変態伝説再び
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今日からCCさくらの再放送が再開した。
テーマソングのプラチナを聞いて、当時のあくせくとしていない俺なら狂喜していただろうに。
あまり感動もないまま、【(増血記)かりん】と最終回である【半分の月がのぼる空】を録画予約。ついでに別デッキで2ndハウスをリザーーーーーブッ。
つーか、前回もムルアカだかなんだか言って落とされてんだよね。
まったく、シケるなぁ。
ここは一つ、PEACEの内容でも考えて現実逃避でもするか。
明日の結果に期待なんてしない。アレで受かるんなら人生は甘い。

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10:14
PEACE前半。完成させたことに驚いた。
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6.

過去に見た夕暮れ時。
窓の外からは自宅の近くにある幼稚園の児童が、仲良くお歌を合唱しているのが聞こえる。

――いつのことだかおもいだしてごらん――

俺がまだ高校に入る前だ。自分の部屋の中でこっそりと煙草を吸っている時に、ノックもせずに親父が入ってきた。俺は窓の桟に腰掛けていた。親父は俺が手に持つ白い棒っきれから、灰色の煙が出てくるのをじっと見つめると、冷ややかな目線を俺に向けてきたのだ。
「おまえはどうして煙草を吸うんだ?」
俺は親父を無視した。何のことはない、ただ欝陶しかったからだ。

――あんなこと、こんなこと、あったでしょう――

「どうして煙草を吸うんだ?」
親父は俺の方に歩み寄ってきて、目の前に立った。
「はあ?うぜぇし」
俺が吐き捨てるように言うと、突然親父は俺の胸ぐらを掴んで、まるで人形を引きずり回すかのように引っ張って、壁に叩きつけた。そしてその壁の脇にある机の上のカッターを手に取り、俺の首筋に刃を突き付けた。親父の顔は無表情だった。

――うれしかったこと――

「質問に答えろ。何でだ?」
怖いとか、そう言う感情は全くなかった。これが普通なのだと思ったからだ。俺は淡々と話した。
「ムシャクシャするのを忘れられるから。別に好きで吸ってるわけじゃねぇよ」

――おもしろかったこと――

親父はフローリングの床に向かって、力を込めて俺を投げ捨てた。顔面を両腕で覆って守ろうとするが、思いのほか衝撃が強かった。口の中を切ってしまい口元から血が流れる。床の上に赤い斑点が出来た。鉄臭かった。

――いつになっても――

「逃避が理由か。だったら勉強に打ち込め。それが出来ないなら死ね」

――わすれない――


あるレコードを手に取った時、俺はふと過去に起きた記憶の断片を思い起こしていた。
(思い出のアルバム……なんで今頃思い出したんだ?)
俺は頭の中に多くの疑問符が浮かんだ。
今この出来事を思い起こせば、凄惨たるものだったと感じることが出来る。しかし俺は、過去の傷跡を引きずっている感じはしない。むしろ俺にとってあれは良いきっかけだったと思う。
ちなみにこの日からしばらく過ぎた後、俺は期末試験の全ての教科できっちり満点を取った。必死になって勉強したわけではない、ただ惰性でテストを作っている教師のパターンを読んで、そのポイントや勉強法を丸暗記しただけだ。
両親は喜んだ。母親はもちろん、あれほど無表情だった父親も笑顔を浮かべていた。俺は少しも喜ぶ素振りも見せず、ただ当たり前といった様子で、無表情のままコンビニに行くと言って、外に出ていく事にした。もちろん嘘だ。
俺は日が暮れる頃、ピース・ライトという銘柄の煙草と百円ライターを隠し持って公衆トイレに駆け込んだ。周りに誰もいないのを確認しつつ、ドアの鍵を締める。上着の内ポケットに隠してあったケースから煙草を一本取り出し口にくわえて火を点ける。何とも言えない香りが立ちこめて、俺の肺をじわりじわりと満たしていく。
……親父は身を以て俺に教えてくれた、人間は性格を使い分けることで態度や反応が変わる、と。
(何だ、人間ってただ演じれば良いんじゃん)
俺は両親の、あの上っ面に浮かべた笑顔を思い出すたびに、自分の口元がゆっくりと吊り上がっていくのが分かった。歪んだ感情に心が満たされていく事は、煙草以上に至福を感じるのだった。
あの時に吹かした煙草は格別だった。けれど、この時のせいで俺は受け身の勉強しか出来なくなってしまったのが唯一の難点と言える。

「……平和さん?」
俺を呼ぶ声にはっとなった。声を掛けてきたのは矢口書店の従業員が付けているエプロンを身にまとった篠沢言乃だった。
「……あ、ああ。すいません」
「それ、おもいでのアルバムって名前の曲ですよね。私、幼稚園の卒業式の時にみんなで歌いましたよ」
「ああ、そうなんすか」
嬉しそうな彼女に対し、俺はぶっきらぼうに答えてしまった。
「懐かしいなぁ……あの時はいっぱい楽しかったもんなぁ……」
彼女はにこりと可愛く微笑みながら、俺が手に持っているレコードに食い入るように見つめていた。彼女の横顔が視界に写り込んでくるたびに、俺の心はキリキリと締め付けられていくのだった。
「……大丈夫ですか?顔色悪いですよ?」
「いえ、ご心配なく」
俺は彼女を心配させないように元気そうに振る舞った。彼女のように過去を振り返って、そんなに元気でいられる人間ではないのだから。
「……あまり、無理はしないでくださいね?」
心配そうに俺の顔を見ながら会釈し、自分の仕事に戻る彼女。

彼女がベレーキャップを取った時、俺はただ息を呑むしかなかった。髪が長く、艶のある黒髪がさらりと肩の上を流れる。ガラスに写る自分を見ながら髪の毛を梳いている仕草は、俺の心を狂わせるのに十分だった。
瑠里と別れる決め手になった、新幹線で出会った女の子がいた。その少女とはあきらかに別の人間だったのだが、驚いたことに彼女はその少女よりも遥かに強い魔力を持っていたのだ。
しかし、俺はあの時新たに決意した。瑠里は絶対に傷付けてはいけない、と。自分がどれほど愚かな人間なのか、口に出さずとも分かる。それを承知で彼女は愛してくれた。それが嬉しかったのだから。
心は不安定に動き続けるばかりで、どうしても今の自分と言うものがよく分からない。

「店長、私に出来ることがあれば何でも言ってください」
「そう気張らなくても良いさ。ノルマが達成すれば平和が残り全てやってくれるだろう」
店長はいつにも増して笑顔になっている。可愛い女性アルバイターが加わったことがよほど嬉しかったのだろう。それにしてもこの店にノルマなどあったのか?と言うか、いつそんなものが決められたんだ?
「分かりました。でも私、もっと頑張りますっ」
小さくガッツポーズをする彼女の姿を見た店長は鷹揚に頷いた。彼女が仕事に取り掛かるのと同時に店長は俺の方に近寄ってきた。いきなり感極まった様子で抱きついてくる。
「平和ぅ、お前は救世主だぜ……あんな健気な子を……俺ァもう嬉しくて嬉しくて……おぅうっ」
俺は溜息を吐きたくなった。たかがこれしきのことで大泣きする大の男がどこにいる。
「しっかりしてくださいよ……アンタ店長でしょう」
俺は子供でも慰めるように店長の背中をぽんぽんと叩いてやる。なんてザマだ。
「済まねぇなぁ……済まねぇ……おぉぅ」
鼻水でも出しそうな勢いで泣き縋る店長。本当、何なんだろうこの人。今までにこんなキャラの人間は見たことがない。
「……店長、これじゃ俺が仕事が出来ません」
店長は俺からぱっと離れ、目尻を袖で擦る。
「……そうだな、俺も泣いてらんぬえぇぞぉ」
最後の方がよく聞き取れないぐらいに呂律が回ってない。これで素面なんだからたいしたものだ。店長は一息ついて、言った。
「よし、あの子をうちの看板娘にしよう」
(……ちょっと待て)
店長の気持ちは分かるがそれはいくら何でも突飛すぎる提案だ。第一、彼女は正式にこの古本屋で働くわけではない。無論、俺もだ。
「……いいんすか、勝手にそんなことして。彼女は俺と同じアルバイターなんすよ?祝日だけの看板娘なんて、あまり聞いたことがないんすけど」
「別料金を払うから大丈夫、言乃ちゃんをうちの看板娘に出来るんならな。俺も頑張るっ!!」
拳をぐっと握り締めた店長。これではもう俺の手には負えない。
(……言うだけ無駄だな)
俺は諦めて、仕事に取り掛かることにした。
作者の名前、題名、値段、購入した年月日。これら全てを名簿に記入し、何百冊とも言える本を一冊一冊確認していく。気の遠くなる作業だが、一日もあれば何とか終わらせることが出来るだろう。
俺は黙々と作業を進めていった。

「おい平和。休憩の時間だから、こっち来い」
白いタオルを首にぶら下げながら、店長が手招きする。一番下の段の本とにらめっこする形を取っていた俺は、ポケットから携帯電話を取り出して、時間を確認してみる。デジタルの長身と短針はどちらも12を指していた。
「了解っす」
俺は書きかけの名簿の間に若草色のしおりを挟み込み、小脇に抱えて立ち上がる。長時間しゃがみ込んでいると足の感覚が麻痺し、ふくらはぎがぱんぱんになる感じがする。軽く足踏みをしながら、俺は店長のいるところに向かう。
カウンターの裏には店長宅、つまり矢口家の人々が居住している家屋があるのだが、実は、その建物の中には【エスペランザ】と言う喫茶店があったりする。こっちは店長の奥さんが経営する店で、割合人が訪れてくれるらしい。
メインとなる客は昼下がりに時間を持て余している専業主婦。
“立ち話も何だから、今日は午後のお紅茶で優雅に過ごしましょう”がモットーであると店長夫人が言うように、客足は滅多に途絶える事が無いそうだ。全く以て暇な人間もいるもんだ、と溜息を吐かざるを得ない。
ここの喫茶店は、華やかな色合いがメインとなっている。日当たりも良く、天気が良い日は天井にあるステンドクラスから陽光が差し込み、店のイメージをより一層際立たせてくれる。
「シズエー、客だぞー」
シズエと言うのは店長の奥さんの名前だ。彼女は店長とは打って変わって、いかにも酸いも甘いも知った様子で、落ち着いた雰囲気を持っている人だ。重ねた年も結構なはずだが、それを感じさせないところがさすがだとしか言いようが無い。店長には悪いが、不相応だ。
「あら、平和君。いつもうちの旦那がお世話になってますわ」
いかにも女主人と言う彼女の雰囲気は何事にも臆せず堂々としていて、俺が今まで生きていた世界とは別のところに存在していたように思ってしまう。
「いえ。昼の掻き入れ時なのに、わざわざ俺たちの為に……本当、すいません」
「いいのよ、これぐらい。……あら、そちらの可愛らしい子は誰かしら?」
悪戯っぽく艶やかな笑みを浮かべるシズエさん。
「あ……、わ、私、篠沢、言乃です……」
恐々と名乗る彼女。二人は対照的だが、きっと女の魅力という点では何か共通性があるのかもしれない。
「ふぅん……、平和君のガールフレンド?」
彼女は顔を真っ赤にし、俺の後ろに隠れる。愛らしい仕草だ。
「篠沢さんとはまだ知り合ったばかりです。初めは……」
俺はシズエさんに事の起こりを説明した。間違い電話から始まり、相談を受けたので、今に至ると。
「まあ、随分運命的な出会いねぇ。私もそういうのって、憧れるわ」
シズエさんが瑠里と同じことを言った時、不意に、胸に痛みが走った。
「いや、俺には……」
俺には瑠里がいる、そう言おうとするのを遮るかのように、彼女の脇に設置されていた温風機がボン、という爆発音を立てた。
「……あら、ヒーターの調子が悪いみたい」
彼女は顔を破顔させて、ヒーターを何度か叩いた。こういう行為を見ていると、彼女も俺と同じ世界で生きてきたという感じがして、何だかほっとする。依然としてヒーターは音を出したままだったので、彼女はスイッチを切った。
「困ったわね、修理に出さないと駄目かしら……」
頬杖を付いて困惑する姿になると、彼女は再び別世界の住人に戻る。
「おうっ、そんならこっちに来な、ストーブがあるからよぉ」
店長が点火式のストーブに当たりながら、人懐っこい笑顔を浮かべて俺達三人を呼んだ。
「うふふっ」
彼女は嬉しそうに笑いながら、俺と篠沢言乃にそっと耳打ちした。言い終わると軽くウインクをして席を立ち、一足先に店長のいる土間へと向かったシズエさん。
俺は思わず店長の顔を見つめる。そこには屈託の無い笑みがあるだけだった。
(……私はあの笑顔にオチたのよ、か。店長も隅に置けないじゃないか)
俺は誰にも分からないように忍び笑いをした。

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10:12
PEACEの後半。これには自分で驚いた
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俺は篠沢言乃と共に店長のいる土間に向かう。ここはちょうど家屋と矢口書店の境にある、常連客が店長と談話をするためのスペースだ。
光沢のあるコンクリートの床。木の切り株をそのまま使った椅子。壁に設置された木の板の上には14型の小型テレビ。
その空間の真ん中に堂々と使い古しの石油ストーブがあり、それを囲むようにしている二人の姿があった。仲睦まじく話す様子は長年連れ添った夫婦である証拠だ。
「おっ、来たな。ほら、当たれ当たれ」
俺と彼女は店長に促され、切り株の椅子に腰掛ける。同時にシズエさんはその場から離れ、俺と篠沢言乃の二人と入れ違いに一人喫茶店の方に戻ろうとする。
「何だシズエ。もういいのか?」
「ええ。私は店に出てるわ。お客さんが来るかもしれないもの」
「そうか、風邪引くんじゃねぇぞ」
「ふふ、ありがと」
笑顔を浮かべるシズエさん。そのまま喫茶店の方に行ってしまった。
「店長とシズエさん、仲が良いんですね」
俺は店長の顎の辺りに目を遣り、言った。
「……腐れ縁って奴だ。ただ取り留めもなく話し続けてきただけだ」
素っ気ない言葉と裏腹に、店長の表情は満たされている。
「でもな、俺みたいなどうしようもない、むさ苦しい人間を、シズエは昔から支えてきてくれたんだ。そんな女、他にはいない」
昔を懐かしむように、店長はストーブの火の揺らめきをじっと見つめる。俺もそれに倣って、窓から赤く燃える世界を覗き込む。
俺にとって、瑠里がそうなのかもしれない。思い起こせば、別れたのは二年前とほんの最近だが、少なくとも彼女の事は両親以上に大切で掛け替えの無いものだと考えている。今日はあんな偶然があり、ヨリを戻したせいか彼女の事を一層愛おしく思えたのだった。
炎は揺らめきもせずに静かに燃え続けている。
「店長さんはシズエさんのこと、好きですか?」
と、篠沢言乃も無垢な子供ののような眼差しをストーブに向けながら質問をする。
「ああ。ただ、一般的に言われている恋愛感情とは別だがな。俺はシズエがいるからこの世間にとどまってきた、いわば、恩人なんだよ」
「恩人……?それに、この世間にとどまってきたって……」
俺が言うと店長はうっすらと笑みを浮かべながら、やんわりと答えた。
「……昔な、俺は△△大学医学部の人間だったんだよ」
△△大医学部、それは俺が目指している志望校だった。俺は目を剥いて、驚愕した。
「店長が……!?」
「驚くのも無理はねえわな。今の俺からは想像も付かねえだろうよ」
胸の動悸を抑え切れずに、俺は店長に早口でまくしたてる。
「待ってくださいよ、それじゃあどうして今はこの古本屋で働いてんすかっ?」
店長はまだ定年ではない、少なく見積もっても後十年は医療者として働けるはずだ。
「……理想と違いすぎたからさ。俺は患者の誰もかもを、分け隔てなく接して、人を助けるために必死になってきた。勉強だって苦にならなかった。自分では理想を貫いてきたつもりだった」
店長はいつになく空虚な様子でストーブの炎を見つめていた。窓の向こう側で、それは蠢いていた。
「だが実際の病院は、患者を対価とした錬金術を行なう場所だった。金の亡者共が群がる、肥え溜めだ。そしてある日、ある患者の執刀医だった俺は、オペを行なった。確実に助けられる、そう確信した時だ。俺が最も信頼していた医療スタッフが、とんでもねえヘマをやらかした」
俺は店長に、どんなヘマだったんですか、とは聞けなかった。
「……その患者さんは、どうなったんですか?」
青ざめた顔をした篠沢言乃が、恐る恐る店長に聞いた。
「死んだよ」
店長は鼻で笑った。決して目には見えない、寒気のようなものが俺の背筋を這い回った。
「お亡くなりになったって言えば良いのかね。馬鹿みたいだぜ、成功率99.99%と言われていたオペをたった一度っきりのポカをやらかしただけで、全部おじゃんだ。俺は難なくプレッシャーに勝てた。でも周りの奴が、勝てなかったんだ」
息を切らすように笑う店長。一瞬だけ、彼の狂気が垣間見えた。
「俺はひたすら親族に謝ったよ。でもな、許しを乞う気はなかった。当たり前だ、立派な医療ミスだからな。そいつらのミスは俺のミスだ。責任を取って、病院を辞めると言った」
店長は溜息を一つ吐いた。
「そしたらよ、患者の子供が俺に言ったんだよ、“お父さん、何で死んじゃったの?”って。答えられねえわな、俺達医療スタッフが殺しました、なんてよ。……結局その子は母親に無理矢理連れてかれたよ。あの時の母親の並々ならぬ憎悪に満ちた眼差しと、あの子供の悲しそうな瞳は、忘れたくても忘れられねえ」
店長はいつもの活気に満ちた笑顔を浮かべて、言った。しかし、その表情には言いようの無い哀しみが含まれていた。
「すっかり自暴自棄になっちまった俺は、医療界から手を引いた。なまじ院長なんてもんになるんじゃなかったと思ってるよ。俺はその日、空の注射器を心臓に突き立てて自殺を図った。そん時に、俺を止めてくれたのがシズエだった」
店長は目を潤ませながら、鼻声で続けた。
「あいつは俺の家に度々遊びに来ていた。俺の姿を見るや否や飛び掛かってきたんだぜ?」
さも可笑しそうにくつくつと笑い始める店長。俺はぴくりとも動かず、神経を研ぎ澄ませて聞いていた。
「何回も打たれたよ、血が滲んでくるぐらいな。俺が注射器を手離した途端に、あいつは泣き始めた。“自分を責めるな、あんたは良くやった”って。あいつはずっと俺のそばで囁き続けてくれたんだ」
彼は鼻水をすすり、袖で目尻を擦る。
「救われた気分になったよ。だから俺は、せめて他人に接する明るさだけは変わらずにやっていこうと決意した。そうして今に至るというわけさ」
店長が語り終えるのと同時に、篠沢言乃は嗚咽を漏らしながら涙をぽろぽろと零し、エプロンをぎゅっと強く握り締めていた。少し前から目が潤んではいたが、ここにきてついに堪え切れなくなったのだろう。
「……」
俺は懐に入っていたポケットティッシュを取り出し、篠沢言乃に手渡した。俺の手のひらにすっぽりと収まるような手が、涙に濡れていたのが分かった。
「言乃ちゃん、そう泣くなよ。今はこうして楽しくやってんだし、第一、過去にこだわらないのが俺のモットーだぜ?」
そうやっておどけて言う店長が、俺にはとても輝いて見えた。
(……俺は一体何がしたいんだろうか?)
と、再び自己嫌悪の念がじわりじわりと蘇ってきていた。

テレビから臨時ニュースの知らせを告げる効果音が鳴った。
『たった今入ったニュースです。今日、8時36分発の○×駅〜○○駅区間の列車が脱線事故を起こしました。現在のところ……』

俺は、その時、キャスターが何を言っているのか分からなかった。








店長、あなたにこんな過去があったとは(´_ゝ`)
それ以上に、ピースはテレビのニュースに驚いてますね。
これから先、どうなるんだろうな。

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