02/14の日記

20:12
二周年
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Nobody Knows Story構想から丸二年ですか。
時が過ぎるのは早いものです。
銀の翼に魅せられて、今の今までに至ります。
そう、Nobody Knows Storyの主人公よ、君は本来ヒロインの引き立て役だったのだ(´・ω・`)

当時は名字だって違ってたし、能力もルックスも違ってた。
新たな物語への繋がりの役割を果たす今日という日は、
俺にとって愛すべき記念日なのです。
君たちがいなければ、人生に彩りはなかったかもしれない。

ハッピーバースデー、ディア………(´_ゝ`)

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06:20
『PEACE』の続き。
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3.

予備校に通い詰めて一週間が過ぎた頃だった。俺はようやくアルバイトの面接に受かったのだ。
仕事の内容というのは、ある古本屋の在庫管理だったのだが、正直言って面倒臭いしうんざりしていた。
しかし俺の持ち前の雰囲気を気にせず採用してくれたのはここぐらいだ。
土方上がりの労働者、と言った雰囲気を持つ店長は、従業員は誰一人いない為か、たった一人のアルバイターである俺の給料に色を付けてくれた。
「ウチの仕事に志願するなんて物好きだな」
よくもまあこの不況の中、そんな事言えますね。そんな感じの言葉を、俺は出来るだけ丁寧に言ってみたのだが、その時の店長は豪快に笑うだけだった。
「若いもんが何を言ってやがる。人手はいつの時代も貴重なもんよ。それに四の五の言う奴は阿呆だ」
店長みたいに世間を軽く笑い飛ばせるほど俺は能天気ではないが、少なからずこの人の人柄は嫌いじゃないのも事実だ。
初日の仕事が終わり、茶色い封筒に同封されたアルバイト代を受け取る。
(こんな適当に生活しててもどうにか生きていけるもんだな)
嫌な仕事とは思うけれど、懐が暖まる瞬間だけはじんわりとした嬉しさが込み上げてくるものだった。
そんな俺も、たった三日間働くだけで辛い部分はあまり見えてこなくなった。作業に慣れてくると、仕事の面白みも分かってくる。
これは近々映画化するコミック、この作者は俺よりも若い、など。意外な事が分かるのは割と気持ちがいい。
それに店長と言う人間と話す事がいい。店長の昔話を聞いて俺はあまりにおかしくて思わず爆笑したり、俺がひどく赤面した時の事を話して店長が俺を励ましてみたり。
そんな感じで店長との会話を楽しみながら、毎度毎度まとまった金が貰える。俺の中でも大きな収穫だった。
このまま試験に合格していたら、いつものように代わり映えしない生活を、両親と周りに流されるまま行い続けていただろう。それにきっとこんな気分を味わう事も無かっただろう。
たかが一週間といえど、進む道が少しずれただけでこうまで違うものかと改めて考えさせられるのだった。
……俺はここでアルバイトが出来て、良かったのかもしれない。
「平和、今日はもう上がっていいぞ」
「お疲れっしたぁー」
いつも通りに茶色の封筒を受け取り、俺は外に出ようとした。
この古本屋は狭い上に、ひどく簡単な作りになっている。
店長が立つレジ側から左が入り口となっていて、
真ん中の本棚を境に二本の通路が、ちょうど店長側から前倣えをするような通路になっている。
もっと簡単に言えば、どこかのコンビニの形に近いのだ。

帰り際に中からガラス越しに窓の外を眺める。いつしか冬の使者が鉛蒼の空を白く彩っていた。
そんな中、ある一人がこの店に飛び込んでくるのが見えた。
灰色で袖長のタートルネックに、足にフィットした細身の黒のズボン。
そいつはまず間違いなく男ではないだろうが、紺青色のベレーキャップらしきものを深く被ってて顔を確認する事が出来なかった。
ドアに付いている呼び鈴が綺麗に響いた。
ひどく殺風景な店だったため俺が店長に提案したものなのだが、なかなか洒落てるだろ? なんてな。それに、客が来た時の合図代わりにもなる。
店長にはこんな気配りすらなかったのか、と初めは肩がガクリと下がったが、まあ店長に倣って“過ぎた事は気にしない”ようにした。

店内に入ってきた客は馬鹿に小柄で、まるで小動物のように思えた。
こんな所に来る物好きがいたのか、と店長と同じ事を考えてしまった。
店長に似るなんて、いい傾向なのか、その逆なのか。別にどっちだっていい事を悩みながら俺は客の邪魔にならないように店から出ようとした。
(帰りに、煙草でも買って帰るか)
俺は手に持っていた封筒をズボンのポケットにねじ込み、入り口のドアノブに手を掛けようとした。

「シノザワコトノです」
俺はその名前を聞いて一瞬手が止まった。少女がどこかで聞いた事のある声でそう言ったのだ。
後ろを振り返った。
そこには店長とベレーキャップの客しかいなかった。
俺はきびすを返し、店長と小動物のいるレジ側に足を運んだ。
「篠沢言乃?」
俺がその名前を口にした途端、少女は肩を大きく波打たせた。そして、ここで購入したであろう一冊の本を手にしたまま薄暗い外へと駆け出していったのだった。
女走りで走り去っていく小動物の後ろ姿がなぜか愛らしかった。
「……何だあれ」
「きっと俺に惚れたのさ」
真面目な顔で店長が言ってのけたので俺は素早く、それはないっすよ、と付け加えたのだった。

アパートに戻ってきて、俺は買ってきた煙草を一本口にし、百円ライターで火を灯した。先が紅く光り輝く。
俺は窓際に腰掛けながら、吸う、吐くの動作を繰り返した。
……俺は一体何のために生きているんだろう。
暗闇に包まれたアパートにいると、いつもそんな考えに襲われる。
だから俺は何も考えられなくても良くなるように、また一本、また一本とケースに手を伸ばしていくのだった。

そんな時に、一本の電話がかかってきた。
一瞬だけ頭の中が真っ白になって、それからすぐに思考回路が復帰する。
俺は火を点けたばかりの煙草を灰皿に押しつけてもみ消した。折角の一本が台無しだ。
(畜生、どこのどいつだ……?)
歯軋りでもするかのように俺は受話器を取った。
「はい、田中ですが」
小さな苛々と仕事疲れによるけだるさを我慢しつつ、出来るだけ努めて明るく答えた。
「あ、もしもし。ヒラカズさんですか?」
その声には聞き覚えがあった。初めて聞いた時、俺が耳障りだと感じた声の主だった。しかし、今日の彼女のトーンはなぜかしら控えめで、割合愛着を持てるような響きだった。
「はい。もしかして、篠沢さんですか?」
「そうです、覚えてくれてたんですね!」
彼女は嬉しそうに声を弾ませた。今の俺が会話する事が出来る人間なんて、バイト先の店長か、もしくはこの俺に電話をかけてきた篠沢言乃以外にはいない。
「先日はどうもありがとうございました。おかげでカトウさんに連絡取れました」
カトウが誰かは俺が知ったことではない。
「いえいえ。ところで、どうしました?」
「実は……ヒラカズさんに相談があるんです」
「相談ですか。俺で良かったら、聞きますよ?」
俺のその一言に、彼女はほっと溜息を吐いた。どうやら、いくらか緊張を解いてくれたようだ。
「ありがとうございます。……私、本を読むのが好きなんです。それでよく古本屋なんかで本を買うんですけど……」
彼女が一呼吸置くのが、電話線に乗って伝わってきた。
「私、誰か他の人と話すのが苦手なんです」
彼女はきっぱりと言った。
それは俺も同じだ。でも、彼女の話しぶりを聞くだけならそんな感じは微塵も感じない。
「そうなんですか?俺が話してる限りは、そんな感じしないような気がするんですが」
「電話だと自分が自分じゃないような感じになって、話しやすいんです」
なるほど、面と向かって話すのが苦手なのか。
「つまりどうすれば普通に他人と会話出来るようになれるか、それを聞きたいんですね?」
「はい」
「難しい質問っすね……。俺が高校に行ってた頃は、近くの駅の前でうちの学校の校歌を全力で歌わされましたけど」
あの時は、死ぬほど赤面した。
でも人間と言うのは不思議なもので、何日もそれを続けていると羞恥心が麻痺してきて、仕舞いには大声で堂々と叫びながら笑顔でそれを行なえるのだ。実は周囲から応援すら貰えてしまうのだった。
今となっては、いい経験だったと苦笑するばかりだ。
「まさか、篠沢さんにそんな事させるわけにはいかないしな……」
俺は思索した。電話の向こう側では彼女が固唾を呑んでいたのが分かったような気がした。
「……そうだ、俺が今勤めているバイト先の古本屋で働きませんか?接客業もあるかもしれませんけど、大概は在庫管理だと思うんで」
我ながらいい考えだと思った。本好きの女の子なら俺の仕事が幾分楽になるし、何より店長という人間には決して存在しない、華がある。
「え、でも……」
「大丈夫っすよ。店長は人種問わないし、面白い人ですから……」
俺はそこまで言って、ある事に気付いた。
「あ、しまった」
肝心な事を忘れていた。俺は篠沢言乃の住所も素性も知らない。悪く言えば、顔も知らない全くの他人だったのだ。
「……まずったな、色々問題がある」
俺は電話口の近くでそう呟いた。もしかしたら彼女は働く事が出来ない、またはここから遥か遠くに住んでいる人かもしれないのに。
「……学校が終わってから七時ぐらいまでなら、大丈夫だと思います。バイト自体は可能ですよ。場所は少し遠くても、土日に時間を作りますから、よろしくお願いします」
俺の考えを汲み取るかのように彼女は答えてくれた。
俺とは正反対の、積極性に溢れた子だ。羨ましい反面、少し不快だ。
ただそんな気持ちはおくびにも出さないように言葉を続ける。
「そんなに熱意があればきっと店長は諸手を上げて喜んでくれますね。それで場所ですが……」

と、突然通話先から携帯電話のメロディーが聞こえてきた。受話器越しに透き通るような心地よい和音が部屋の中に響いた。
「あ、すいません。ちょっと用事が出来ました。また後で連絡します」
「そうですか。ではまた」
「今日はありがとうございました、ヒラカズさん!」
彼女は快活な声で礼を言うとすぐに、プツッと電話が切れた。

同時に、俺の中に張り詰めていた偽善者の糸も切れた。
受話器を元の位置に戻すと、俺はそのままふらふらとベッドの方へと向かった。全身の力が抜けて、喫煙する気も起きない。
……俺が相談に乗れるような人間か?俺が誰かに相談を受けたいような状況なのに呑気に女の子相手に大人振ってか?
一人で生きてるつもりでも、このアパート代や予備校の資金は誰が負担している?
大体、予備校に通っても、試験に落ちた時と何一つ変わらない毎日を、有り難みなど感じる事無く無駄に過ごしているだけなのに……。
「くそ……」
様々な思いが俺に襲い掛かる。
俺はすっかりだれ切った自分自身の身体をベッドに埋めた。スプリングが俺をぎしぎしと押し返してくる。
そして、暗い空間の中で利き腕を目蓋の上に乗せると再び、自己嫌悪の時間が訪れるのだった。

……いっそ、この世界が今すぐ消えて無くなってしまえばいいのに。





……暗いぞ、ピース。
この後は何が起こるだろうね。気になるね。
そうでもない?
気になってよ(´・ω・`)

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